有料会員限定

ホンダ「経営の失敗」と「復活の条件」、【自動車業界のご意見番】中西アナリストが斬る

✎ 1〜 ✎ 11 ✎ 12 ✎ 13 ✎ 14
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

有料会員限定記事の印刷ページの表示は、有料会員登録が必要です。

はこちら

はこちら

縮小
ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹氏。1986年オレゴン大学を卒業。メリルリンチ日本証券などを経て2013年に独立。40年近く自動車産業を見続けてきた(撮影:ヒダキトモコ)

特集「どうする! ホンダ」の他の記事を読む

2040年に世界で売る新車をすべてEV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)にする「脱エンジン」を掲げていたホンダ。しかし、ここ数年で市場環境は激変。当初もくろんでいた、EVを通じた‟第2の創業”にも黄色信号が灯る。本特集では、もがく業界の異端児の全体像を追う。

ホンダが輝きを取り戻すのに何が必要か――。長年、業界を見てきたナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹アナリストに聞いた。

戦略の多くが裏目に出ている

――ホンダの株式市場での評価が低迷しています。EV事業の赤字に苦しんでおり、PBR(株価純資産倍率)は足元で0.58倍と株式市場での評価も低迷しています。

PBRはトヨタ自動車でさえ約1倍で、豊田自動織機が保有するトヨタ株などを考慮した実質では0.7倍台なので、ホンダの評価は相応と言える。株式市場での自動車業界の評価は陰の極まで来ている。ただ、今のホンダに問題があるのは事実だ。

三部(敏宏)社長が立てた戦略は多くが裏目に出ている。今期だけでEV関連で開発投資を含めて6500億円もの損失が出る。この立て直しは最重要課題だと株式市場は認識している。

――三部社長は2021年に「2040年の脱エンジン」宣言をしましたが、それが間違いだった、ということでしょうか。

当時はカーボンニュートラルを目指します、と言わないといけない時代だった。2050年にカーボンニュートラルを目指すならCO₂を出すエンジン車ではダメというのは合理的だ。

退路を断って戦略転換をする、と「脱エンジン」のビジョンを示した三部社長のリーダーシップは高く評価している。普通は動かないで恐竜化していくなかで、ホンダらしく生まれ変わる、と宣言した。

しかし、状況が変わった。アメリカの環境規制がここまで変わるとは誰も予想できなかった。カーボンニュートラルへの潮流が大きく揺らいだ今、戦略を修正すること自体は正しい。

――脱エンジン宣言を撤回すべきだ、と?

「脱エンジン」を撤回するか、しないかという議論に意味はない。もともと2040年にエンジンがなくなるとは三部社長も思っていなかった。そのくらいの「覚悟」を社内外に示すために言っただけで、エンジンやハイブリッド車(HV)の開発も続けていた。

新しい規制環境に対応した戦略転換をいつ打ち出すかというだけの問題だ。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードは早々に発表した。ホンダはアメリカでの政策が正式に決まるまでは公表しなかっただけで社内では着々と修正していた。

――とすると、戦略のどこに問題があったのでしょうか。

特に問題なのはGMと共同開発したEVに起因する。前期に共同開発したEVを約6万台売って2000億円の損失が出た。今期は相当売る台数を減らし、来期はほぼゼロにする。それでも今期に2000億円近い粗利の損失が発生した。

GMとのEVは、大きな台数を前提とする契約をしていた。台数を売ろうとしてインセンティブ(販売奨励金)が1台当たり3000ドルの計画から1万3000ドルに増えた。これでは赤字が膨らむだけなので計画を諦めた。今後は計画変更に伴うGMへの補償金の支払いも出てくる。

アメリカの規制がここまで大きく変わるとは思っていなかっただろう。だが、結果的に共同開発EVは2年程度で10万台売るか売らないかのレベルで、合計4000億円近い粗利の損失を出すことになる。これはさすがにGMとの契約も含めてビジネスディシジョンに安易な前提があったとしか思えない。

次ページEV事業の赤字削減のために必要なことは?
関連記事
トピックボードAD