エリートへの不満を人気取りに使う保守派--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト
数十年前、何人かの欧州と米国の知識人たち(マルクス主義を学んできた者が多い)が活字に対する「ポストモダン」な批評を生み出した。彼らはこう論じた。ニューヨーク・タイムズ紙やルモンド紙で読むことは客観的な真実だと思うかもしれないが、そのすべては、ブルジョワ階級の利益のためのプロパガンダが偽装されたものだ、と。
サントラム氏や支持者たちの多くがポストモダン理論をどれか一つでも読んでいるということはないであろう。最近、サントラム氏は、国民全員が大学教育を受ける権利を持つべきだと主張したオバマ大統領を「インテリ気取り」と呼んだ。
ティーパーティやその他の急進的な右派が忌み嫌うすべてのこと、すなわち教育水準が高く、知的で、都会的で、現世的で、白人以外も含む人々を代表する物書きたちをサントラム氏が嫌うということは間違いない。こうした物書きたちは学問の世界では左派エリートなのだ。
しかし、思想は予期しなかった形で伝わることがある。サントラム氏によるオランダの架空の描写に対するワシントン・ポスト紙の訂正を退けたブロガーは、完璧なポストモダン派のように意見を表明していた。パリやニューヨーク、バークリーの有名でない左派思想家の最も忠実な追随者は、米国のハートランド(中西部)の最も反動的な分子なのである。もちろん、このことを指摘しても、反動的な分子たちはエリート主義のプロパガンダだとして退けるだろう。
Ian Buruma
1951年オランダ生まれ。70~75年にライデン大学で中国文学を、75~77年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。
(週刊東洋経済2012年4月7日号)
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