エリートへの不満を人気取りに使う保守派--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト
今年の米大統領選挙における共和党候補者の指名獲得を争っているサントラム元上院議員は、オランダに関して非常に奇妙な発言をしている。同氏の主張によると、同国の全死亡の10%は安楽死によるもので、さらに安楽死の半分は無力な患者に強要されているという。また高齢者は殺人的な医師に殺されることを恐れて、「私を安楽死させるな」と書かれたブレスレットをしている、というのだ。
オランダ人は困惑している。同国の議会では、外相が米国政府に苦情を申し立てるべきではないかと問う声さえ出ている。
実際、サントラム氏の空想は米国自身によって素早く反証された。米ワシントン・ポスト紙は、「サントラム氏の主張を裏付ける証拠はかけらもない」と結論づけた。ある米テレビ局は、米国民を代表してオランダ人記者に謝罪さえした。
オランダには非自発的な安楽死などといったものはない。患者の同意が不可欠で、少なくとも2名の医師が、患者の苦しみは耐えがたく、治療できないと合意しなければならない。さらに、オランダの死亡に占める安楽死の比率は、10%に近いといった水準ではまったくない。
しかし、この件がサントラム支持者たちにとって少しでも問題になるだろうか。おそらくならないだろう。「エリート主義の」主流派メディアによる訂正は、敵のプロパガンダとして退けられる。同氏寄りのブロガーは「案の定、ワシントン・ポスト紙はサントラム氏の信用を傷つけようとした」と書いている。