【産業天気図・ソフト/サービス】旺盛な金融需要で活況続き「晴れ」。中期の勝負を分ける「種まき」期との見方も
ソフト・サービス業界は依然として書き入れ時が続く見通しで、天気予測は年度を通し「晴れ」。
牽引役は金融業界のIT投資。これまでのメガバンク・証券需要に加えて、保険・クレジット関連の投資意欲も盛んになってきた。快走が続く野村総合研究所〈4307.東証>を筆頭に、金融向けに強い業界企業の間には、来09年3月期まで確実に稼げる、という余裕すら漂っている。
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査(特サビ統計)によると、情報サービス業界の4月の売上高は6258億円で、前年同月を6.4%上回った。業界売上高のほぼ半分を占める受注ソフトウエアが金融需要などで伸長したうえ、ゲームソフトも06年下期に相次いで登場した次世代機種の影響で伸びたことなどがその要因だ。
この活況は今期は通年で安定的に続く見通し。専業首位のNTTデータ<9613.東証>は、従来強みだった公共需要が軟調にもかかわらず、金融アウトソーシングの貢献などで増収増益を見込んでいる。07年3月期は大型不採算案件で不調だったTIS<9741.東証>も、今期は保険業界からのシステム需要で業績急回復の公算だ。電機大手の一角のNEC<6701.東証>や富士通<6702.東証>でも、金融や自動車、通信業界からのITサービス需要が堅調で、大型コンピュータや半導体などハード系事業の不調を補って連続営業増益が期待できる。
拡大基調の業界だが、「快晴」に一歩足りないその懸念材料は、やはり人手不足だ。東京労働局によると、関東1都5県のシステムエンジニアなど情報処理技術者の有効求人倍率(一般常用)は3月、全職種平均の0.97倍を大きく上回る3.99倍に上っている。企業からも「人が採れない」との声は多く漏れ聞え、エンジニア不足は相当深刻だ。
深刻な採用難の中、業界主要企業はM&Aで開発力を伸ばしたいところだが、目下合併で企業規模を拡大できたのは前期にグループ内統合を果たした伊藤忠テクノソリューションズ<4739.東証>ぐらいのもの。業界上位の日本ユニシス<8056.東証>は6月、通信に強いネットマークス<3713.東証>をTOBで傘下に納めたが、TOB成立直後にネット社が前期の不正取引を明らかにしたことから、今後このM&Aが思惑通り業績拡大につながるかどうかは微妙な状況となった。
ソフト・サービス業界のM&Aといえばここ数年、日立ソフトウェアエンジニアリング<9694.東証>など日立製作所<6501.東証>系列数社の再編がささやかれてきたが、日立製作所の古川一夫社長が今期初の経営方針説明会で「当面は現状維持」と述べたことから、少なくとも今期の動きは期待薄のもようだ。
市場環境が堅調なだけに、業界主要企業は当面、再編の必要性を棚上げし、足元の稼ぎに走っているのが実情のようだ。業界の天気図は当面「晴れ」だが、注目したいのは主要企業がどれだけ中期の種まきに励めるか。その点では、今期を事業育成の期と明確に位置づけている野村総研は高く評価できるだろう。
【杉本りうこ記者】
(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部
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