目を見張る大阪・関西万博パビリオン、"異形の美"を支えるのは『魔法の膜』。 東京ドームも生んだ太陽工業が挑む「やわらかい建築」の凄み
それだけではない。膜は開発から設計・施工まで分業が難しく、最初から最後まで太陽工業が一手に引き受ける必要があったと言う。
「建設の世界は、たいてい工場と建設現場で分業します。ところが、膜の場合はそれができません。膜は建築物に着せる服のようなものなので、途中まで仕立てたものを後はお任せというわけにはいきません。
オーダーメイドの膜を一気通貫でつくりきらなければいけないので、研究所で素材を開発し、工場で膜をつくって現場まで運び、自社で育てた膜工さんを連れていき、建築物に膜を着せてあげなければならない。
工場や建設現場に加えて、設計も必要です。膜の設計は曲面や生地のような素材を扱うので、膜構造物の計算ができる専門の設計者が求められます。つまり、製販全部がそろわないと、大きな膜構造物は完成しないのです」
太陽工業が今回の万博で受け止めたプレッシャーと負担は計り知れない。その一方、通しで膜をつくりきることができるのが太陽工業の強みであり、それが世界各国からのオファーにもつながっている。
膜は環境負荷を低減する
膜の開発・運用には高度な技術が必要とされる一方、膜には大きな建設上のメリットがあると能村社長は言う。
「膜は環境負荷が小さい素材です。世界の二酸化炭素(CO2)の半分が建築で出ていると言われるように、基本的に建設で重いものを扱うと、それだけ多くCO2が出る傾向にあります。
まず、素材をつくるのに大量の熱を使う。運ぶときに大量の電力を使う。建てるときに大量の燃料を使う。あらゆる建築工程でCO2が排出されます。
その点、膜は軽いので圧倒的にCO2を減らすことができます。つくるときのCO2、運ぶときのCO2、建てるときのCO2、すべてに関して膜は非常に軽く、カーボンニュートラルに適した素材なので、今後さらに使用が広まっていくと思っています」

ただし、膜は薄くて軽い分、いくつか弱点もある。その点においても、太陽工業は弱点を補う技術を進化させている。
「膜が薄いと、熱が逃げてしまいます。ですから、今後環境負荷をもっと減らしていこうとすると、熱を逃さない膜が必要で断熱膜の研究を進めており、すでに試験的なものは海外で使われています。
皆さんは、熱を出したときに保冷剤のようなものを使われると思いますが、いわばあのイメージのナノジェルを進化させて、熱を逃がさず、しかも光を透過するようにしています」
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