目を見張る大阪・関西万博パビリオン、"異形の美"を支えるのは『魔法の膜』。 東京ドームも生んだ太陽工業が挑む「やわらかい建築」の凄み

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「新しい素材で一番怖いのは、これが半年経ったらどうなるのかということです。なぜなら、誰も試したことがないので、それがわかりません。本建築だと何十年と素材が持たなければいけないので、さらに予測がつきません。

ですから、私たちは『促進暴露』という早送りの試験を行います。新素材が10年持つかどうかを確かめるためには、まるでタイムマシンに乗っているかのように、10年分の熱をかけ、雨を降らせ、想定される負荷をかけて素材の変化を見ていくと、その環境で何年持ちそうだというのが仮説的にわかるわけです」

当時の発明であった東京ドームの膜素材は、少なくとも20年は持つと推定されていたが、38年目を迎える今年もなお現役である。今回の万博で太陽工業によって磨き挙げられたETFE膜も、新たな可能性を生み出している。

「大阪ヘルスケアパビリオンの外装に使用されているETFEフィルムは、透明のガラスに見えるのに、割れなくて曲面ができるという特性を持っています。日本は地震が多いので、将来はガラスがETFEに変わっていくのではないかと感じています。

私たちは約120個の海外のスタジアム開発に携わっていますが、近年はETFEを採用する事例も出てきています。ETFEは透明ですが、白く色をつけることもできますし、フィルムなのでメタリックのテカリもつくれて自由度が高いので、デザイナーさんの間でも広がっているように思います」

万博のように挑戦的な場があることで、かつてない発明が生まれる。やがて、それが汎用化され、広く世界に普及していく。万博での試練を乗り越えようとする太陽工業の取り組みが、未来の私たちの生活にもつながっているのである。

大阪ヘルスケアパビリオン
大阪ヘルスケアパビリオンの膜屋根は、フッ素樹脂をフィルム状にした透明なETFE膜とそれを支えるトラスで構成されている(写真:太陽工業提供)

万博を支える「膜」の技術

知れば知るほど、膜の世界は奥が深い。能村社長の話を聞けば、新しい素材の開発だけではなく、今回の万博のパビリオンや施設がいかに高度な膜の技術によって支えられているかがわかる。

「膜は、どの職人さんにも扱えるわけではないんです。『膜工』と呼ばれる専門の職人さんがいて、それは鳶職の中ででもさらに膜を扱える人です。

そもそも高い所に登って身の安全を守りながら作業をするためには資格も経験も必要で、鳶職自体が少ないのですが、さらに膜を張れる職人さんとなると、世界に100人いるかいないかで、本当に数が限られてしまいます。

そんな中、通常であれば1つずつ施設をつくりますが、今回の万博は複数の施設を半年前から一斉につくり出すわけですから、工場ラインとリソースの確保にはかなり苦労しましたし、頑張ってくれた職人さんには本当に頭が下がる思いです」

能村社長
(写真:梅谷秀司撮影)
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