グーグル対アップル「抗争」で割を食うのは? 「アプリ」か「ウェブ」か、それが問題だ
この相反する戦略のために、特に厳しい状況に置かれているのがオンラインメディアである。メディアはほかのどんなウェブ事業よりも、アプリとウェブの両方を活用している。最も熱心なユーザーに対応するためにアプリを利用し、新たな読者を獲得するためにウェブを使うのだ。そのため、オンラインメディアは、ウェブとアプリに多くの時間とおカネを費やしてきた。しかし、多数の技術スタッフを抱えられない小規模なメディアにとっては、それが大きな負担となる。
この状況は、アップルとグーグルの最近の展開により、さらに厳しさを増している。先月アップルは、iPhoneやiPad上でウェブサイトの広告をブロックできるようにした。そうした広告で売り上げを稼いでいるメディアにとっては、これは痛手となりそうだ。そして来月にはグーグルが、ポップアップ画面で自社のアプリを宣伝しているウェブサイトを、検索結果の下の方に表示する予定だ。一部で「アプリブロック」と呼ばれる展開である。
同時に、グーグルはモバイル・ウェブの速度を上げるためのプロジェクトに、いくつも取り組んでいる。その中には、メディアに焦点を絞った「アクセルレーテッド・モバイル・ページ」という取り組みもある。これは、ニュースなどの記事がモバイル・ウェブ上で素早くロードされるようにするためのものだ。
一部のウェブサイトにとっては、アプリ対ウェブの議論は悩むまでもないことのようでもある。モバイル・ウェブに対して、アプリがかなり優勢だからだ。デジタル広告に関するゴールドマン・サックスのレポートによれば、アメリカ人はオンラインで使う時間の60%をアプリで過ごしており、これに対してパソコンは30%、モバイル・ウェブはわずか9%だ。
それでも、アプリに関するコストが負担になるメディアもありそうだ。モバイル広告などにおカネを出してアプリを売り込み、読者にインストールしてもらわなければならないからだ。そうしたコストにより、デジタル誌の「ザ・マガジン」は廃刊に追い込まれた。同誌は2013年2月のピーク時には3万5000人のアプリ読者がおり、2年4カ月で約75万ドルを稼いでいた。
ザ・マガジンの編集長だったグレン・フライシュマンは、「多数の中で注目を集めるのはとても難しかった」と言う。
この点で、ウェブは魅力がありそうだ。アタビストのようなサイトは、ソーシャルメディアを使うことで、マーケティング費用を削減できる。
アタビストのラトリフは、「モバイル・ウェブに問題があったとしても、アプリで事業を始めようというメディアは、今はほとんどないと思う」と言う。同社はアプリから撤退したので、今ではフェイスブックやツイッターなどを通じて記事をどう配信するかにより集中できるという。「フェイスブックやツイッターでトラフィックを増やせる」とラトリフは話す。
独立したクリエーターには逆風?
アプリとウェブの板挟みになるのは「とてつもなく厄介だ」と話すのは、詩と散文のジャーナル「リトルスター」を発行するアン・チェルバーグだ。彼女はアプリを作成する技術スタッフを雇えなかったため、2012年の中頃に、29ストリート・パブリッシングにアプリの作成を頼んだ。そのため、チェルバーグは現在、アプリによる購読料収入の一部を同社に支払っている。チェルバーグはその後、モバイルのウェブサイトの作成も同社に依頼し、やはり購読料の一定割合を支払っている。
「独立して一人で何かをやろうとする人が、この技術環境に適合するのは難しい」とチェルバーグは話す。彼女は続けて、グーグルやアップルのような会社は、「クリエイティブな人々の仕事をサポートするのではなく、人々が自分たちの会社のビジネスモデルや機器や画面への依存症になること」を狙っていると話した。
(執筆:Katie Benner記者、Conor Dougherty記者、翻訳:東方雅美)
© 2015 New York Times News Service
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