「奨学金代理返還を導入する企業が3700社を超え、学生たちの選択肢が広がったとはいえ、全体の企業数から見れば、まだ十分とは言えません。例えばかつては、教員になれば学生時代に借りた奨学金が免除される制度がありました。
1970年代、教員志望者が少なかったため、『学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法』が制定され、教員の給与を他の公務員よりやや高めに設定したんです。その効果もあり、教員は人気のある職業になりました」
返還免除制度が廃止された職種も
しかし、行政監察庁は「教員はすでに人気があり、給料も高い。そこまでして返済を免除する必要はない」と判断し、1998年に奨学金返還免除制度は廃止された。その代わりに、第二種奨学金(有利子)の申請条件が緩和され、2004年には大学や研究機関の教員向けにあった返還免除制度も廃止されている。
「大学院生には“優秀者免除”が一部残っていますが、学部卒業者には返済免除制度は一切ないのが現状です。つまり、国がかつて行っていた返済免除政策をやめたことで、今は地方自治体や企業が代理返還制度を通じて支援の役割を担っているというわけです」(同)
近年、企業だけでなく地方公共団体や教員採用における奨学金返済の代理返還制度なども登場してきている。こうした奨学金の負担を軽減する取り組みがさらに広がれば、奨学金問題という社会課題も少しずつ解消されていくだろう。
そのためには、まず給付型奨学金の充実や、止まらぬ大学の学費高騰に対して、国が本気で取り組むことが求められる。しかし、現状では何のアクションも起こされていない。
そのなかで、民間企業が代理返還制度によって格差是正を率先して行っているのが実情だ。ただし、今後大企業が同制度を導入することで、初期から制度を取り入れて若者の処遇改善に取り組んできた地方や中小企業の努力が、結果的に埋もれてしまう危険性もある。歓迎すべき動きではあるものの、ここでも格差が生まれてしまう。
繰り返しになるが、奨学金は「自己責任」で片づけられるものではない。根本的な解決のためには、国が本気で取り組まなければならない時代が訪れている。
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