「埼玉県の場合、代理返還額の3分の2は県が補助してくれますが、残りの3分の1は会社負担です。しかも美容業界は社会保険料の負担が非常に重く、うちの会社でも年間3000万円以上。3年で1億円を超える規模になります。これに加えて消費税の納税額も跳ね上がります。人件費が高い会社は、その分消費税が控除されるわけでもないので、経営はラクではないです」
「社員を辞めさせないための“枷”になるのではないか」
多くの企業が昨今の奨学金問題という社会課題の解決に向けて、「身を切りながら」奨学金の代理返還制度を導入している。しかし、気になる点が2つある。
例えば、社内で「奨学金を借りている者たちだけが優遇されていてズルい」という声が上がるかもしれない。いくら奨学金を借りている人たちがマイナスからのスタートとはいえ、「毎月1万5000円を多めにもらっている」といった不満が、奨学金を借りてこなかった社員から挙がることは十分に考えられる。
実際には、代理返還に充てられるため、単純な給料アップにはつながらないが、そこは各社とも留意してきた。大手総合物流企業の山九株式会社の人事部・大井啓一郎氏はこう語る。
「そのような声が上がることは気がかりでした。そのため私たちは社内で慎重に支援の必要性や対象範囲を議論してきました。これまで奨学金の代理返還制度に対するネガティブな声は出ておらず、理解をしてもらえたと感じています」
JR東日本も、若手社員の処遇改善を重視し、“処遇改善”に力を入れている。そのため、奨学金の代理返還制度だけでなく、初任給の引き上げなどさまざまな取り組みを行っている。
さらに、障害のある子どもを持つ社員など、さまざまな事情を抱える社員に向けた制度も総合的に拡充しており、奨学金の代理返還制度は、そうした多様な福利厚生のひとつとして捉えられている。
電気機械器具卸売業の九州機電株式会社も100万円の「結婚祝金」や、子どもひとりにつき、月々2万〜4万円の「子ども手当」など、奨学金の代理返還以外にも福利厚生を充実させている。


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