一方で、「代理返還制度は社員を辞めさせないための“枷”になるのではないか」という疑問もSNSを中心に広がっている。確かに企業が代わりに何年も支払ってくれるのはありがたいが、人間関係や職場環境に悩み、退職しようとした際に、それまで企業が負担していた分を「すべて返せ」と求められる可能性も否定できない。
結論から言うと、企業が社員の奨学金を全額一括で返還するわけではないため、それは現実的ではない。また、今回取材した企業のいずれも、退職の際に返金を求めることはしていない。
それでは、なぜこうした疑問が生まれてしまうのだろうか? 桜美林大学特任教授の小林雅之氏は、こう語る。
「地域医療や看護師については、以前から病院奨学金という貸与型奨学金の返還免除制度が行われてきました」(同)
これは、大学卒業後に特定の医療施設に一定期間勤めることで、奨学金の返済が免除される制度だ。そこでも、期間内に退職すると病院に返金を求められるわけではないが、それまで免除されていた分を自らが負担することになるため、「辞めたくても辞められない」という声が多く聞かれてきた。こうしたイメージが、企業の代理返還制度にもつきまとっているのだろう。
「代理返還制度はそれとは異なるという認識が、一般にはまだ十分に広まっていないのが現状です。そもそも、奨学金制度は現在、非常に複雑になっており、いわゆる“有識者”とされる人であっても、間違った情報を発信していることがあります。それだけではなく、深刻なのは、SNSなどで影響力を持つインフルエンサーの発言です。若者の多くがそうした情報を信じてしまい、誤解が広がっているのです」(同)
代理返還制度は職業選択の幅を制限する!?
そして、3つ目は疑問というよりも懸念である。奨学金を受給している学生が増え続けている現状では、将来、学生たちが自分のやりたいことではなく、奨学金の返済を優先して、代理返還制度を導入している企業への就職を希望するケースが出てきてもおかしくない。
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