がん治療の効果を高め、予後を改善する「栄養治療」とは?「特定の食べ物だけをとる」とはまったく違う、新しい考え方《専門医を取材》
GLIM基準が正式に導入されたことで、どの病院でもすべての入院患者に栄養状態を確認することが義務付けられ、早い時期からの栄養治療が可能となった。
「低栄養の患者さんを見逃さず、早い段階から栄養治療を進めることが大事。これがどのがん治療を行う病院でも始まったことは、とても意味がある」と、比企医師は言う。
比企医師は、がん患者向けに作られた『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』の策定にも関わっている。
では、具体的に栄養治療ではどんなことが行われるのだろうか。
がんの症状によって、あるいは誤嚥が多い高齢者では、口から食事をとることが難しいこともある。その場合、チューブやカテーテルを通して、胃や腸に直接、栄養剤を注入する(経管栄養)。そうして栄養状態を改善してから、手術や抗がん剤などのがん治療を開始する。
比企医師によると、栄養治療を開始して、その効果が表れるまでの期間は平均して約2週間。約8割の患者の栄養状態が改善し、がん治療を始めることができるという。
間違った情報ががん治療に悪影響
近年、がんの種類や進行度によっては、入院せず、働きながら、または家事や育児、介護などをしながら、通院でがん治療する人も多い。
外来でがん患者の栄養治療に取り組んでいるのが、岡山済生会総合病院だ。同病院の内科・がん化学療法センターの犬飼道雄医師は前出のガイドラインの作成を主導しているが、「“栄養にまつわる誤解”が、がん患者の治療に悪影響を与えているケースも多い」と指摘する。
「『○〇を摂ると、がんによくないから食べない』『○○を食べていれば治る』などといった誤解がいまだに根強くあります。そうした科学的根拠のない情報に患者さんやご家族が振り回されることで、摂るべき必要な栄養が不足してしまう。正しい情報に基づいた食生活を支援していくことが必要だと思っています」(犬飼医師)
抗がん剤治療中は副作用による吐き気や味覚異常、口内炎などに悩まされ、食事が摂れないことがある。「食べられる時期」と「食べられない時期」が交互に訪れ、体重減少や脱水にもつながりやすい。
「このようなときは、食事の時間や回数にこだわらず、食べられるタイミングで1日何度でも食事をとることが大事です。どうしても食べられないときには、がまんせずに早めに医師や管理栄養士など医療者に相談してください。必要に応じて、脱水予防を目的に点滴をしたり、次の抗がん剤治療をする際に薬を減量したりします」(犬飼医師)
栄養治療は、副作用が起こる前、つまり抗がん剤治療を行うときから始めておくのが理想だ。体調のよいときから栄養治療に取り組むことが、がん治療の質を高めるカギになる。
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