"音響の名門"パイオニアの「台湾傘下入り」が秘める《車のスマホ化》という希望と《経済安保》のリスク

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今回の買収主体である台湾の液晶パネル大手イノラックスは、パイオニアと同様に激しい市場競争にさらされてきた。2023年12月期まで2期連続で最終赤字を計上するなど、その苦境は深刻だ。

そのため、イノラックスは「脱・パネル依存」を経営戦略の柱に据え、市況に左右されにくい車載パネルやシステム分野に注力している。イノラックスの子会社CarUXは、自動車メーカーにさまざまな情報を運転席周りのディスプレーシステムに集約できる「スマートコックピット」を納入しており、とくにアメリカの自動車メーカーとの関係が深い。

イノラックス会長兼CEOでCarUX会長の洪進揚氏は、「パイオニアが築いてきた日本や世界の車大手との関係を通じ、市場でのプレゼンスを急速に拡大できる。とくに日本の自動車サプライチェーン(供給網)への参入が可能になる」(イノラックス公式発表より)と述べている。

「車のスマホ化」が秘める可能性

この発言は、イノラックスがパイオニアの持つ技術力だけでなく、長年にわたり培われた自動車業界との信頼関係、そして日本の緻密なサプライチェーンへのアクセスを重要視していることを示す。

パイオニアの矢原史朗社長も、「CarUXと共に業界に前例のない統合型の製品を提供できる」と述べている。自動運転の進展や「車のスマートフォン化」のトレンドにより、自動車内でのエンターテインメントや情報消費のニーズは今後ますます高まるだろう。

自動車内では、運転手や同乗者1人ひとりの好みに合わせた音響が自動で調整され、まるでライブ会場にいるかのような臨場感あふれる音楽体験ができるようになるのではないか。加えて、完全自動運転になれば、移動中に映画や動画コンテンツを楽しめるだけでなく、家族や友人とのオンライン会議もストレスなく行えるようになるだろう。

ソニーグループとホンダが設立したソニー・ホンダモビリティがソニーグループのエンタメ技術を搭載する電気自動車(EV)の受注を始めたことや、中国の自動車メーカーが大型ディスプレーや多数の音響設備を備えた自動車内空間を競う現状を見れば、車載エンタメ市場の可能性は非常に大きい。

パイオニアの培ってきた高音質化技術と音響空間設計ノウハウ、そしてカーナビゲーションシステムで培ったヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)の知見と、CarUXの最先端ディスプレー技術、そしてスマートコックピット全体のシステムインテグレーション能力が融合することで、単なるディスプレーと音響の統合を超え、より新しい移動体験を創造する可能性を秘めている。

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