分断化する世界で企業に求められる「ルースカップリング戦略」とは何か アップル、ユニリーバの成功事例に学ぶ
中央集権型のグローバル展開が、突発的な事象への対応には限界があることを、改めて実感することになりました。
このお客様に限らず、多くの日本の製造業は、一貫した品質管理や系列企業との強固な連携、綿密なサプライチェーン管理を軸とした「タイトカップリング戦略」で成長してきました。
一方で、「タイトカップリング戦略」には、環境変化に適応しにくい(デジタル化や市場変化への対応の遅れ)、 パートナーシップの硬直化により外部との協業が難しい、内部の縦割り構造が強くイノベーションが生まれにくい、といった問題があります。
「デジタル多国籍企業」がとるべき戦略
本書『デジタル多国籍企業』では、デジタル技術を最大限に活用し、現地化・地政学リスクに対応する新たなグローバル戦略を策定するためのフレームワークを提供することを目的としています。
地政学リスクや現地化対応の必要性が低かった時代においては、共通のビジネスモデルをグローバルに展開し、管理や意思決定を本社に集約する「タイトカップリング」型の戦略が最も有効とされてきました。
前述のように、これは多くの日本企業が強みとしてきた戦略であり、たとえば、日本で培った生産ノウハウをそのまま海外拠点に適用したり、グローバル統一のERPシステムを導入して全体を一元的に管理する、といった手法がその代表例です。
ところが、近年は各国・地域での現地化要請の高まりや地政学リスクの増大により、こうした中央集権型の戦略では対応が困難になりつつあります。その結果、ビジネスモデルや意思決定の権限を現地に委ねる現地独立型の「デカップリング」のアプローチをとらざるをえない状況となっています。
しかし、デジタル技術によって、業務の効率化・最適化だけではなく、戦略や事業の柔軟性を飛躍的に高められるようになりました。
時間と場所を越えたデータの共有と管理、製品・サービスとオペレーションのデジタル化により、ローカルでのカスタマイズを容易にし、「集中による即応性・最適化」と「現地の個別性・柔軟性」とを両立させる「ルースカップリング」が実現可能となったのです。