《ミドルのための実践的戦略思考》マイケル・ポーターの『競争の戦略』で読み解く部品営業担当者の悩み
たとえば、今回のきっかけとなった「新規参入の脅威」について、ポーターの整理に基づいてもう少し深く考えてみましょう。ポーターは、新規参入に対する参入障壁をチェックする視点として、以下のポイントを上げています。
(1)供給側に「規模の経済」が発生するか?
固定費がどれくらいかかるビジネスか?
(2)需要側の「規模の利益」は発生するか?
顧客は大きなプレイヤーの方を選びたくなる理由があるか?
(3)顧客のスイッチングコストは発生するか?
顧客がブランドを切り替えるときに、コストや手間は発生するか?
(4)巨額の資金が必要になるか?
設備投資や在庫の積み増しなど、初めに資金はどれくらい必要か?
(5)規模とは無関係なコストは発生するか?
独占的な技術、原材料への独占アクセス権などはあるか?
(6)流通チャネルの開拓コストは発生するか?
既存プレイヤーによるチャネルの締め付けはどれくらい厳しいか?
(7)政府の保護施策はあるか?
政府による許認可や外資規制、補助金などのルールがどれくらいあるか?
こういった視点をもって、田中さんのビジネスを考えてみるとどうでしょうか。それほど大きな固定費がかかるビジネスではなさそうなので、「規模の経済」は発生しそうにありません。大きなプレイヤーであるから選ばれやすくなる、という点もなさそうです。規制などもありませんし、トータルで考えると、潜在的に新規参入の脅威は高かったと言わざるをえないでしょう。
もちろん、考えていたはずの「競争相手」や「買い手」についても、
・「業界全体のパイを広げるためにできることはあるのか?」
・「顧客のスイッチングコストをどう高めるべきか?」
といった視点の考察も必要だったでしょう。
そして、そのようなことを考えて、「事が起こる前に、業界構造を理解し、自分達に有利になるように、あらかじめ意図を持って何らかの手を打っておく」こと。それこそが「戦略」と言っても過言ではありません。
例えば、業界の再定義に活路あり
田中さんのようなシチュエーションに置かれた段階で焦っても、打てる手は限られています。でも簡単に諦めてはいけません。発想次第でまだ策は講じられます。
例えばポーターは、「5つの力」を分析する際の注意点として、「業界の範囲を正しく定義すべき」ということを言っています。特に起きがちなのは、「業界定義が広すぎる」ということでしょう。そうなると、戦略上のポジションニングや、収益性にとって重要なポイントが曖昧になってしまいます。