《松本潤主演》ドラマ『19番目のカルテ』浮き彫りにする“日本医療の課題” 外科や内科だけじゃない!あなたの知らない「総合診療医」の世界
このように、総合診療とは、特定の臓器や疾患に限定せず、「人」そのものを包括的に診るという医療のあり方だ。患者の身体的な症状だけでなく、その家族構成、生活背景、地域文化まで含めて全体像を把握し、人々の健康な生活を支援することが重要な役割となっている。
ドラマで描かれる2つの症例はまさに総合診療の理念を体現しており、読者の方々も「現実にこうした医師がいたら……」と思わずにはいられなかったことだろう。「病気ではなく人を診る」とはどういうことか、ドラマは2つの症例を通じて具体的に示してみせた。実はこの理念こそ、いま医療現場で求められているものなのである。
多疾患併存の時代、「総合診療」がなぜ必要か
私事で恐縮だが、筆者自身はいまも複数の疾病を一度に患い、複数の医療機関を受診している。医療費や時間的負担があり、痛感したのは、私の体の「全体を俯瞰して診てくれる医師」がいればということだ。もし当時総合診療医に相談できていれば、もっとスムーズに適切な医療にたどり着けたのではないか。
筆者の実感だが、同じように感じた経験がある患者は決して少なくないだろう。実際、日本は超高齢社会を迎え、複数の疾患を併せ持つ高齢患者が急増している。専門臓器ごとに分かれた従来型医療では対応しきれない「未分化」の症状も含め、総合的に診られる医師の重要性は増す一方だ。
ところが現状では、その受け皿が圧倒的に足りない。総合診療は厚労省の新専門医制度で2018年に基本領域へ加わったが、総合診療専門医の新規認定は年にわずか200~300人前後にとどまる。
地域住民2000人につき1人の総合診療医が必要と考えると日本全体で約6万人が必要だが、とても追いついていないのが現状だ。筆者が所属する日本総合研究所の報告書(2025年6月)も、地域でプライマリ・ケアを担う総合診療医は将来的に数万人規模で不足すると指摘している。
さらに診療報酬面でも課題がある。出来高払い中心の現在の外来制度では、診療回数や処置の量を増やすほど収入が上がるため、どうしても「数をこなす」診療になりがちだ。
事実、厚生労働省の令和5(2023)年受療行動調査(確定数)によると、病院の外来患者1人当たりの診察時間は「5分~10分未満」が40.9%と最も多く、次いで、「5分未満」が28.1%であり、約7割の病院で10分未満である。患者の心理や社会的背景まで汲み取る全人的な医療を志しても、時間が限られた診察現場では難しさがある。
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