猛虎復活は「鉄人」の思い切りに掛かっている 阪神は生え抜きへの固執を捨て、賭けに出た

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試合前の練習中に4番のゴメスがドローン(小型飛行機)を飛ばしても、現場コーチが放置したのは緊張感の欠如というしかなかった。ここ数年、ペナントレースの競った展開にもろい体質と、若手の伸び悩みが目についた。「育てながら勝つ」というのは至難だ。本来は経験豊富な監督の手腕に任せるのが的確だろう。

「鉄人」という"劇薬"を投じる球団オーナーの坂井信也電鉄本社会長は「経験がないといわれるかもしれないが、われわれフロントが一層の支援態勢を敷いて、ともに戦っていくつもりだ」という。

もっとも金本氏の現役時代の実績は申し分がない。91年ドラフト4位で東北福祉大から広島入り。3年目あたりから芽が出て、レギュラーになった後は看板選手にのし上がっていく。2000年には打率3割1分5厘、30本塁打、30盗塁の「トリプルスリー」を達成。走攻守3拍子そろったタイプだった。さらに脚光を浴びたのは、2002年オフ、FA(フリーエージェント)権を行使して阪神移籍を果たしてからだ。

ルーキーだから思い切ってできる

当時監督だった星野仙一氏(楽天球団副会長)からのオファーによって実現した阪神入りは、強烈なインパクトがあった。星野監督は低迷したチームの現場、フロントなど総勢20人以上の血の入れ替えを断行。大補強の目玉が広島からの金本獲得だった。

2003年は主に「3番」に座ってチームを18年ぶりのリーグ優勝に導いた。岡田彰布監督が率いて優勝した2005年には40本塁打、125打点をあげてMVPを獲得する。2006年には904試合連続フルイニング出場の世界記録を樹立、最終的に1492試合に伸ばした。骨折してでも試合出場を続けた金本は「鉄人」と称された。

ユニホームを脱いだのは2012年オフ。その後は野球評論家としてネット裏で活動してきたが、3年間の充電期間を経て、再びグラウンドに立つことになった。

「答えをだすのに時間がかかった。指導者経験もない。でも指導者経験がないからやってやろうと。経験があると、手探り、腹探りを優先してしまう。1年生ですから、ルーキーですから。いろいろ迷ったが、逆に1年目だから思い切ってできるかもと思いました」

金本氏との交渉役だった南信男球団社長は「これからが本当のスタート。心身ともタフなチームを作りたい」と語った。はたして阪神の決断が吉とでるか凶とでるか――。猛虎復活は未知数のタクトに託された。 

寺尾 博和 日刊スポーツ新聞社大阪本社編集委員

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てらお ひろかず / Hirokazu Terao

てらお・ひろかず 日刊スポーツ新聞社大阪本社編集委員。阪神、近鉄、南海、ダイエーなどを担当、野茂英雄のメジャー行きから現地に派遣される。2004年球界再編を取材、2008年北京五輪、09年WBCなど国際大会などで日本代表チームのキャップを務める。現在は主に東京五輪での野球ソフトボール復活を取材中。ミニストップ社とコラボでオリジナルスイーツ作り、オリジン社と弁当開発を手掛けて全国発売するなど、異色の名物スクープ国際派記者。大体大野球部出身。福井県あわら温泉生まれ。趣味はスポーツ、歌舞伎、舞台鑑賞。毎週木曜日にABC朝日放送「おはようコール」のコメンテーターとしてレギュラー出演。

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