400人しか読まなかった記事で訴えられたワケ

無名の環境活動家がなぜ、狙われたのか

ケムリスクから訴訟を起こされたチェリー・フォイリン (James Billeaudeau/The New York Times)

ポーステンバックの代理人を長らく務めているトーマス・クレアは、ポーステンバックは出張中でインタビューに応じることができないと語った。ケムリスクは声明の中で、提訴の目的は「事実を明確にし、事実と異なる主張を公にする人に警告する」ことだとしている。

また、フォイリンとサベージは「ヒットピース(名誉を汚すことを主な目的とした記事)」を書くことが狙いで、記事がオンライン上にある限り、その「嘘がケムリスクの名誉に対して重大な害を及ぼし続ける」とした。

訴えられた2人の女性は動じていないようだ。彼女たちは当初、弁護士を雇う余裕がなかったため自ら代理人を務めていた。昨年、ニューヨーク州の裁判所が管轄外であることを理由にケムリスクの訴えを退けると、同社は再び2人をマサチューセッツ州の裁判所に提訴。それを受けてフォイリンは、フェイスブックの投稿に精を出すようになった。

ルイジアナ州レインに6人の子供と暮らすフォイリンは、自らのページに「第2ラウンドも受けて立つ。かかってきな」と投稿した。そして、失うものが何もない人間には注意したほうがいいと述べた。

彼女たちは反撃にも出ている。現在2人の代理人を務めている無償弁護士は先日、反対運動の封じ込めを狙った訴訟から活動家を守るマサチューセッツ州法に基づき、ケムリスクの訴訟を却下するよう裁判所に申し立てた。そうした訴訟は、スラップ訴訟とも呼ばれる。

原油流出事故が残したもの

事の発端は、2010年にメキシコ湾で起きたBP社の石油掘削施設ディープウォーター・ホライズンの爆発事故だ。サベージは4人の子供と共に夏休みを過ごすためボストンの自宅からルイジアナ州を訪れていた。事故が起きた際、フォイリンは地元紙にパートタイムで記事を執筆していた。

2人は、掘削装置から噴出する化学物質や流出した原油を散らすのにBPが使用している薬剤が健康に及ぼすリスクについて懸念するようになったという。フォイリンは、BPが招待したメキシコ湾での清掃活動の見学に参加したが、その後、空咳に悩まされたという。

「呼吸するのも大変だった」とフォイリンは言う。「主治医に気管支炎と診断され、人々が原油流失について言っていることは正しいと確信した」

ケムリスクは2011年、事故で放出された揮発性物質と清掃作業に携わった人が訴えた健康問題には関係性がないことを示す研究結果を発表した。同社は調査の独立性を主張したが、サベージは疑念を抱いた。そして、カリフォルニア州の法律事務所で事務員をしていたエリン・ブロコビッチが戦った訴訟におけるケムリスクの役割について報じたウォール・ストリート・ジャーナルの記事を読んだことで、彼女の疑念は深まった。

2013年、フォイリンとサベージはニューオーリンズからワシントンまでの湾岸地域の活動家たちによる抗議デモをきっかけに出会い、ケムリスクとディープウォーター・ホライゾンに関する同社のレポートについてハフィントン・ポストに記事を寄稿した。

記事の中で2人は、ケムリスクは「少なくとも一度は不正を働き、環境汚染をする大企業を長年に渡って擁護している」と、『エリン・ブロコビッチ』の訴訟に関するウォール・ストリート・ジャーナルの記事を踏まえて、非難した。

ケムリスクの広報担当は、すぐにハフィントン・ポストに対して記事を撤回するよう申し入れた。それを知らされたフォイリンは、ケムリスクに対してフェイスブック上で「やなこった」とメッセージを送った。

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