400人しか読まなかった記事で訴えられたワケ 無名の環境活動家がなぜ、狙われたのか
科学コンサルティング会社ケムリスクを率いるデニス・ポーステンバック博士は、環境活動や製品の安全性に関して法的に非難されている企業にとって、有力な専門家として長年認められてきた。彼とケムリスクはまた、ジャーナリストたちから監視の目を向けられる存在でもある。
ウォール・ストリート・ジャーナルは2005年、後の映画『エリン・ブロコビッチ』の基になった裁判において、ケムリスクの果たした役割は物議を醸すものだと報じた。その7年後、シカゴ・トリビューンは、難燃剤の安全性に関するポーステンバックの調査について疑問を呈した。そして2013年には非営利報道団体センター・フォー・パブリック・インテグリティ(CPI)が、労働安全に関する提言に反論するポーステンバックについて検証した。
ポーステンバックは、ケムリスクの事業は科学的に正当で倫理にかなったものであり、その信頼性に対する攻撃の背後には原告の弁護士がいると主張している。そして最近まで同社は、出版社やジャーナリストを名誉棄損で訴えたことはなかった。
記事を掲載した環境活動家を相手に法廷闘争
しかし、ケムリスクはここにきて思いも寄らない相手との法廷闘争に打って出た。その相手とは、2010年にメキシコ湾で発生したBP社の原油流出事故に関与したケムリスクの業務について、ハフィントン・ポストに無償記事を掲載した2人の環境活動家だ。
「彼らが何も反応せず見過ごしていたら、世間の注目を浴びることはなかっただろう」と、記事の共著者のひとり、カレン・サベージ(49)は言う。元数学教師のサベージによれば、記事は当初、わずか400人にしか読まれなかったという。
サベージと共同被告人のチェリー・フォイリン(42)に対する訴訟は、インターネットが活動家とジャーナリストの境界線を曖昧にしていることを浮き彫りにしている。だが同時に、なぜケムリスクは同様の批判をしたウォール・ストリート・ジャーナルは提訴せずに、今回の訴訟を起こしたのかという疑問を生んでいる。