賃金上昇を待つより、投資してしまったほうが断然効率がいい決定的証拠

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GPIFは、株式と債券の安定的な収益を組み合わせることによって、平均5%近い収益をあげてきました。15年や20年といった長期投資を前提にすれば、今後も賃金上昇率を上回る収益を上げられる可能性が高いと言えるでしょう(仮に賃金上昇率が証券投資収益率を上回る状況が続けば、それはそれで中間層以下の労働者にとって朗報です)。

GPIF第5期中期目標期間(2025年度からの5カ年)をじっくり読んでみると、

「長期的に年金積立金の実質的な運用利回り(運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたもの)1.9%を最低限のリスクで確保することを目標とし、この運用利回りを確保するよう、〈中略〉基本ポートフォリオを定め、これに基づき管理を行うこと」

つまり、賃金上昇率を1.9%ポイント上回る証券投資収益を目標に掲げています。賃金上昇率が2%ならGPIFの目標は3.9%になるという意味です。

「格差拡大」時代の資産防衛術

一見すると当たり前のように思いますが、これはある意味で投資をする(できる)人と、そうでない人の「格差拡大」が前提になっていると読み替えることができます。

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繰り返しますが、GPIFはヘッジファンドなどとは違って、私たちの年金積立金を安全に運用する機関投資家ですから、賃金上昇率に勝る収益率は決して野心的な目標ではなく、控え目ですらあります。

株式などの資本から得られる収益が、実質GDP成長率を上回る。これはフランスの経済学者であるトマ・ピケティ氏が『21世紀の資本』(2013年)で一躍有名にした「r>g」という関係に通じるものがあります。

rはreturn on capital(資本収益率)、gはeconomic growth(経済成長率)です。実質GDPと(実質)賃金上昇率は、労働分配率が一定なら大差はないため、「証券投資>賃金上昇率」と読み替えることもできます。

主要先進国の長期データを基にすると、裕福な人は株式、不動産、債券を持つことができ、そのリターンを享受することができる一方、資産を持つことのできない低所得者層は生活費だけで精一杯ですから、富を増やす手段はもっぱら労働に依存します。それでは逆転は難しくなってしまいます。

それは、労働から得られる賃金上昇率が証券投資収益率に追いつけない、と換言することができます。こうした長期データを基にすれば、格差拡大という犠牲の下に高い運用収益を上げてきたGPIFが、年金原資の増大を通じて国民全体に再配分してきたことは何とも皮肉です。

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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