オオカミの護符 小倉美惠子著

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オオカミの護符 小倉美惠子著

川崎市の郊外に住む著者は古い土蔵に張られたオオカミの護符に導かれて山里と神社を訪ね歩く。農民たちが大事にする御嶽講(みたけこう)の習俗を映像に記録しようとして御岳山へ、さらに秩父の山々へ向かったのだが、そのいわば文章編である。自然と向き合い寄り添う里山の人々の生活がゆったりと描かれ、その中から「お犬さま」を心から敬ってきた姿が浮かび上がる。お犬さま、それはかつて武蔵国に住んでシカやイノシシなどの害獣から農作物や樹林を守ってくれたオオカミだった。

お炊き上げこと赤飯炊き、手刷りの護符、太占(ふとまに)と呼ばれる秘儀=占いなどオオカミがらみの実話には興味が尽きないが、オオカミのお産の声を聞きつけて食べ物を山中に供える御産立(おぼたて)の件(くだり)は特に読ませる。今や貴重となった情念とともに読者が目の当たりにするのは神々の居場所としての「お山」であり、人々の自然との共生である。都市化の対極にある世界が奥深さをもって迫り、余韻も十分だ。(純)

新潮社 1575円

  

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