『科学的根拠で子育て』著者と考える「幼少期の先取り学習は子供のためになっているのか問題」

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中室:しかし、学力テストが「考える力」をどれくらい正確に計測できているかということを改めて考えてみると、テストの種類にもよりますが、測定誤差が大きいものもあります。考える力を測っているというよりも、テストの問題を短時間で解くようなテクニックやスキルを測っているだけではないかという批判もあります。

窪田:たしかに偏差値だけで人の能力を測ることには違和感がありますね。

中室:ですから、学力テストだけではなく、もう少し多面的に能力を測ろうという試みがあってもいいように思います。スポーツが得意な人、リーダーシップを発揮できる人、といったように能力の測り方が複線化していけば、教育の在り方そのものが多様化していくことにつながるはずです。

教育システムが変わらない理由は、「保護者のマインド」

窪田:企業の採用でも同じですよね。新卒一括採用が主流で、そのシステムをハックできる人が優勢になっていく。結果として、多様で複雑な社会に対して、課題解決能力がある人を育てるチャンスを失ってしまっている気がします。

中室:おっしゃる通りです。教育に関していうと、最近では探求学習を重視するような学校や、「高校魅力化」などと呼ばれ、地域に根差した教育を行う学校、グローバルコースやスポーツコースなどを作っている学校も出てきています。

少子化の中で、学校が生き残りをかけて特色を打ち出そうとしているという面もありますが、やはり偏差値一辺倒ではなく、多様な能力を育てていきたいという考え方が、学校側の希求として強くなっているように感じます。

中室牧子
中室牧子/慶応義塾大学総合政策学部教授 1998年慶応義塾大学卒業。アメリカコロンビア大学で博士号取得(Ph.D.)。日本銀行等での実務経験を経て、2019年から現職。デジタル庁シニアエキスパート。専門は教育経済学(写真:中室氏提供)

窪田:それは期待できますね。

中室:実は、教育現場には、偏差値偏重の教職員はあまり多くはないと思います。仮に学校が学力偏重になることがあるとすれば、それは保護者の要請によるものが大きいのではないでしょうか。

窪田:なかなか考え方が変わっていかないと。

中室:そうなんです。教育の供給側の学校が変わろうとしても、教育を需要する側の保護者のマインドが変わらなければ変化は生じにくい。それが、日本の教育における評価が偏差値偏重になっていることの1つの理由ではないでしょうか。

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