TPP、コメ「関税維持」で消費者が被る不利益 「聖域」とされるコメの政策は矛盾だらけ
「聖域」であり守る立場とされた農畜産物に関しても、国全体で見れば、不利益を被るとは限らない。
たとえば輸入牛肉の関税は、いち早く1991年の70%から、2000年にかけて38.5%まで引き下げられた。しかし、畜産業者の努力により、高価格の和牛の生産は1991年の14.3万トンから、2014年には16.1万トンまで増加。関税引き下げが業者の競争力を高めた“実績”がある。
TPPでは、現行38.5%の牛肉の関税が段階的に引き下げられ、発効後16年目以降は9%まで下がる。消費者はこれまで以上に輸入牛肉を安く購入することができるようになる。大筋合意が伝えられた5日の東京株式市場では、食肉商社などの「TPP関連銘柄」が急騰した。
コメ産業はジリ貧
が、大半の農畜産物の関税が引き下げられた一方、コメは現行の1キログラム当たり341円の関税が維持された。
コメの保護政策は徹底している。日本はGATT(関税および貿易に関する一般協定)ウルグアイ・ラウンド交渉における合意を受け、高い関税をかける代わりに、1995年から毎年一定量(2000年から77万トン)のコメを、ミニマム・アクセス(MA)米として輸入。国内農家に影響を及ぼさないよう、そのほとんどは家畜の飼料や国際援助などに回してきた。と同時に、売買差損や在庫の保管料など、累計2700億円の財政負担が発生してきた。
今も販売コメ農家数は116万戸と、野菜の37万戸や果樹の24万戸と比べても、圧倒的に多い(2010年時点)。農業界で最大の発言力を持つ。
今回のTPP交渉でも、「聖域中の聖域」としてコメの関税を守った代償に、日本は5.6万トン(段階的に引き上げ、発効後13年目以降は7.84万トン)を無関税で輸入する、「TPP枠」の設定を受け入れた。MA米にTPP枠が加わることによって、財政負担の拡大が懸念される。