TPP、コメ「関税維持」で消費者が被る不利益 「聖域」とされるコメの政策は矛盾だらけ
コメ農家の平均収入を見ると、総収入の445万円に対し、農業・農業生産関連所得はわずか54万円。それ以外は農外所得と年金収入等が占める(左図)。畜産(肉用牛)、酪農と比べても、農業関連所得は突出して少ない。
つまり、さまざまな優遇策が多くの“片手間コメ農家”を存続させてきたわけだ。本間教授は「現状の116万戸のうち適正なコメ農家は、専業としてやる気がある20万~30万戸程度」とみる。
コメ産業の改革に立ちはだかってきたのが、全国農業協同組合中央会(JA全中)を頂点とする、農業協同組合(農協)である。
農協が産業構造を温存
零細の兼業農家にとって、農協は農産物を品質にかかわらず一律価格で買い取ってくれるため、販路開拓の必要がなく、安定的な経営を守ってくれる。ただ他方で、このシステムはいいコメを作ろうという農家の動機を失わせ、日本のコメ産業の競争力向上を阻む一因ともなっている。
悪影響はそれにとどまらない。全国に700ある地域農協は一般的に、県経済連や県本部といった上部組織から飼料や肥料を仕入れ、収穫後はそこに農産物を売り渡す。上部組織が販売する飼料・肥料の価格は、ホームセンターなどよりも高い場合が多く、生産コストがかさむ。
福井県の地域農協・越前たけふ農業協同組合(JA越前たけふ)の冨田隆組合長は「農家が真剣にコストを下げようと思っているのに、JAグループは悠々と割高な生産資材を流通させている」と、上部組織への不満を漏らす。
ジリ貧状態から抜け出すためには、上部組織に依存せず、自ら変革を進めるしかない。JA越前たけふの場合、独自に卸業者と連携し、すしチェーン向けの販路を開拓。すしやどんぶり物に適した品種の生産強化にも取り組んでいる。少量ながら香港などへの輸出も始まっている。
行き詰まりつつある日本のコメ産業の構造を転換する絶好の機会だったTPP。関税維持で決着した今、求められるのは、志ある農家によるボトムアップの変革だ。
(「週刊東洋経済」2015年10月17日号<10日発売>「核心リポート01」を転載)
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