少子化進む人口大国・中国 合計特殊出生率は日本以下に・・・ 孫の幼稚園と習い事で「月11万円超」も? 中国国民が話す「少子化の実態」とは

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政府は、2025年に新方針として「若者の発展能力向上計画」を打ち出した。単に出産を奨励するのではなく、若者の結婚・出産の意欲低下という根本的な問題を解決することを目的としている。

2025年からは、一線都市(19の大都市)において新たに供給される分譲住宅の15%を、35歳以下の「若者専用住宅」として提供する。価格は同地域の市場価格の約70%に設定し、若者の住宅購入を促進する構えだ。既婚で出産を希望する若年家庭に対しては、最長30年間の超長期住宅ローンを提供し、頭金の比率も15%まで引き下げ可能となる。この政策により、若年家庭の住宅負担は平均で38%軽減される見込みだ。

働く女性へのサポートも強化する。2025年7月から、政府は「出産コストの社会的分担メカニズム」(生育成本社会化分担机制)を開始し、出産にかかわる人件費の一部を負担する。企業が妊娠・出産した女性従業員に支払う産休中の給与の70%を、社会保険基金から補填する仕組みだ。これまで企業が全額負担していたものを軽減し、「出産コストが高いから女性を雇わない」という差別的採用を抑制する狙いがある。妊婦や授乳中の女性に対して明確な差別行為を行った企業に対しては、最大500万元(約1億円)の罰金が科される。

ただ、出産・育児によるキャリアへの影響を懸念する女性はいまだに多い。中国人力資源社会保障部の2024年の調査によると、働く女性の85.6%が就職活動中に何らかの形で出産に関する差別を受けた経験があると答え、68.3%がキャリアアップに支障が出ることを懸念し、出産を延期または断念したと回答した。

男性の育児休暇制度については地域によって異なり、例えば江蘇省では30日間の男性育児休暇が導入されている。しかし、社会全体としては、男性が育児休暇を取る風潮はまだ形成されていないようだ。中国の現行「労働法」では、女性の出産休暇に関する規定があるのみで、男性の出産休暇に関する明確な規定はない。

中国人の価値観の変化が著しい

中国は今、少子化と高齢化のダブルパンチを受けており、労働力不足や社会保障制度の圧迫が懸念されている。政府は出産奨励策を次々と打ち出しているが、若者の「不婚・不育」傾向を転換させるには、多くの課題が残っている。

経済が急速に発展するにつれて、中国人の価値観やライフスタイルの変化も著しい。ネット情報の影響も大きいと考えられる。多くの中国人が外の世界の価値観に触れるようになり、世界中を旅する中国人もだんだん増えている。若者の中には「少子化は社会進歩の証しだ。若者はより自由で自分らしい快適な生活を追求するようになっている」と話す者もいる。「結婚=幸せ」「子育て=人生の義務」という価値観が崩れてきており、独身生活やDINKs(子どもを持たない共働き夫婦)を選ぶ人が増えているのだ。

中国は地域ごとに経済水準や伝統的な価値観に差異があり、少子化問題への政策対応の程度にも大きな違いがある。また、「体制内」の人たちの医療、福祉が相対的に整っている一方で、「体制外」の職業に就く一部の人々が“安心できない暮らし”を余儀なくされているのも事実だ。

「多子多福(子だくさんは福をもたらす)」、「重男轻女(男を重んじ、女を軽んずる」、「传宗接代(家系を継ぎ、代を繋ぐ)」、「养儿防老(子どもを育てて老後を守ってもらう」という中国人の伝統的な価値観は、もはや「風と共に去りぬ」だ。

今後はグローバル視点で少子化問題を考える必要がある。日本、韓国、中国は同じく高齢少子化に直面している。各国が積極的に高度人材を招き、双方向の流動を生むことで、少子化問題をある程度緩和することができるのではないだろうか。もちろん、少子化の原因や背景は国ごとに異なり、各国には民衆の安心感と信頼感を育むことが不可欠だ。移民の受け入れと多文化共生の推進、および国際的な育児・働き方制度の共有を期待せずにいられない。

黄 文葦 ジャーナリスト

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こう ぶんい / Kou Buni

日本と中国、日本語と中国語を愛する在日中国人フリージャーナリスト。学校法人白萩学園名誉理事。中国の大学と日本の大学院でマスコミを専攻、日中両国のマスコミの現場を経験。2000年来日以降、日本語と中国語で教育、社会、文化の問題に焦点を当てたコラムを執筆し、両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。19年に電子書籍「日中文談: 在日中国人の日本観(エッセイ)」を出版。20年8月から23年7月までの3年間、日中文化比較のメルマガ「黄文葦の日中楽話」を発行。24年10月、「新中国語から中国の『真実』を見る」(風人社)を出版。

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