人類がギャンブルや酒に依存してしまう理由は、人類の祖先の「食べ物探し」という行動にたどることができる
「この考え方は、今も続いています」とベリッジは言った。いまやドーパミンは通俗心理学において神話的な地位を獲得している。私たちはドーパミンまみれのゾンビの国におり、みなが次のヒット物質に焦がれているのだと言われている。ドーパミン分泌を高めるためにあらゆる種類の非生産的で堕落した行為に走る人々の話はよく耳にする。
たとえば『フォーブス』誌の「衝撃中毒」というタイトルの記事は、人々が銃器を愛好するのはドーパミンのせいだと主張する。
あるいはNBCニュースの「なぜQアノンの信者は中毒患者に似ているのか」というタイトルの記事によれば、どうやらドーパミンのせいで人々は、(Qアノンについて描写されているように)「アメリカ元大統領ドナルド・トランプに対して陰謀をたくらんでいる悪魔崇拝者・小児性愛者・人肉嗜食者による秘密結社が、世界規模の児童売春組織を運営している」という説を信じてしまったのだという。
問題解決には「ドーパミン断(だ)ち」が必要だとさえ言われている。だがそれは基本的に、「もうしたくないことをするのはやめろ」という内容を、神経科学風味で軽薄に表現しただけだ。
こうしてドーパミンは、人間のこれまでのあらゆる悪行の責めを、一部にせよ負わされるようになった。
ドーパミンの本当の役割
だが、ドーパミンはじっさいには「快楽物質」ではない。そして、私たちが何かをしたり信じたりするように強いるものでもない。
「ドーパミンは、たとえ報酬が不適応な状況でも、人がその報酬を追い求める可能性を高める」のだと、ベリッジは私に語った。
ドーパミンはまた、多芸で強健な文民のような存在でもある。神経伝達物質であるドーパミンは、私たちの脳内や体内の神経細胞間で情報を伝達する。
ドーパミンは傍分泌〔訳注 細胞間におけるシグナル伝達の一つ〕メッセンジャーとしても機能する。これは言うなれば、他のあらゆるプロセスがきちんと実行されるように指揮する建設請負人のような働きだ。
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