スシローが始動した「天ぷら定食店」。行って感じた"凄さ"と、すしでも天丼でもない、その深い”狙い”

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あえてかき揚げ定番のタマネギを使っていないのは「水分量が多いから」とのことで、確かにサクサクの食感の中にやわらかいタマネギが入ると食感が不揃いになりかねない。かなり計算されたかき揚げだった。

揚げ油が果たす役割も大きい。キャノーラ油をベースに「太香胡麻油」をブレンドしたという揚げ油は油切れもよく、余計な油が垂れていない。嫌な油っこさは皆無、もたれずにいくらでも食べられそうな軽い食べ心地だった。

店内を見渡すと60代や70代以上と思われる高齢者も一定数いたが、この軽さであれば彼ら彼女らも抵抗なく食べられる仕上がりだと思った。

定食の価格は1100~2000円。1000円を超えておりお手頃とは言えないかもしれないが、こうしたクオリティの天ぷら定食がこの値段で食べられると思うと大満足だ。筆者の個人的意見になるが、本当においしい食事とは後からじわじわ思い出すものだと思う。

テレビ番組の食レポでレポーターが食べた瞬間に目を見開き「おいしい!」と大げさに騒ぐアレではなく、食べた翌日ふとした瞬間に「昨日食べたあれ、おいしかったなぁ」と思うようなもの。「天ぷら定食 あおぞら」の食事はまさに翌日に「また食べたい」と思い出すものだった。

スシローがなぜ「天ぷら定食」?

「スシロー」が主力業態のFOOD & LIFE COMPANIESだが、これまでもさまざまな新業態に挑戦してきた。2017年にサブマリン戦略から始めたすし居酒屋の「杉玉」は現在全国に約90店舗。ほかM&Aで傘下に収めた「京樽」「回転寿司みさき」も展開中だ。

今はないが、かつては「ツマミグイ」や「七海の幸 鮨陽」といった業態を手掛けていたこともあった。今後も同社が永続的に成長するためには、スシローブランドのみに頼らずシナジーがある新業態の開発は必須だが、今回は同社が「天ぷら定食」というアイテムに目を付けた理由を考察したい。

昨今、外食では揚げ物の需要が高まっている。共働き家庭が増えるなど家事にかける時間が減る中で面倒な揚げ物は敬遠される。からあげやトンカツがブームになり、それらの専門店が賑わったのも無関係ではないだろう。また、スシローは海鮮の仕入れに強みがある。揚げ物と海鮮、その両方を生かす天ぷらに行きついたのだろう。

同様に天ぷらでチェーン展開するブランドと言えばロイヤルグループの「てんや」があるが、こちらは天丼というスタイルを取っている。チェーン展開するには一つのボウルに盛り付ける天丼のほうがやりやすそうだが、スシローがあえてひと手間かかる「天ぷら定食」にしたのはなぜだろうか。

この業態の何よりの価値は、揚げたての天ぷらを一つ一つスタッフが置いてくれることだと思う。そもそもこれは高級和食店のスタイルであり、高級なカウンターのすし店や天ぷら店に行くと、大将が握ったすしや揚げたての天ぷらができ次第どんどん目の前に置かれていく。

「できたてが目の前に提供される」は高級店の一つの体験価値。その体験価値を庶民的なかたちにデフォルメしたのが「天ぷら定食 あおぞら」だ。もともと握り立てを目の前に置いていくすしを作り置きしてレーンで回しているのが回転ずし。その回転ずしチェーンが、逆にオールドスタイルの提供方法に回帰しているというわけだ。

天丼では「揚げたてを一つひとつ置いていく」という体験価値を提供できない。だからこそ「天ぷら定食」というスタイルに落ち着いたのだろう。

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