3000円台の低価格で注目の放射線測定器、開発は個人ボランティア、専門家・企業が「儲け抜き」で協力

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テクノアソシエ内では、プロジェクトそのものは小笠原氏がすべて担当した。「Yさんたちを含めて少人数のプロジェクトだったので意思決定も速く、非常にスムーズで、やりがいもある仕事だ」(小笠原氏)。

ポケガの組立加工を行うのは、宮城県石巻市で電子機器加工を手掛けるヤグチ電子工業だ。製造を多少でも被災地の復興支援につなげたいと考えたY氏に、テクノアソシエが紹介した。同社は地震の被害はかなり受けたが、内陸部にあるため津波の被害は免れていた。

ヤグチ電子工業の佐藤雅俊取締役は、「加工依頼の話が来たときは、当時多かった震災便乗の案件かと思った。ただ、しっかりした試作を見、企画の説明を聞き、協力する価値があると判断した。実際、シンプルで組み立てやすいよい機器だ。部材支給で加工費のみのリスクでもあり、受注した」。

ポケガには「Made in Ishinomaki」と刻印されている。Y氏らの思いが込められているのだが、「この刻印は初めはプレッシャーだった。だが、現在は従業員も“石巻製”に誇りを持って作業しているようだ。品質・コスト・納期で最大限のパフォーマンスを出していきたい」と佐藤氏は話す。


■ヤグチ電子工業での加工。基板へのアルミ張り(左)と実機検査


 「ポケガはモノづくりの新しいスタイルとしても注目できる」と語るのは、松本佳宣・慶応義塾大学理工学部教授だ。
 
 「構成する技術1つひとつは既存のもので、回路構成も標準的なものだが、製品としての完成度が高い。メーカーが普通に開発したら、開発費回収を含めて3万円程度の値段にしないと無理なレベル。それをこの価格で実現できているのは、ネットワークを通じて技術力のあるエンジニアがボランティアベースで直接かかわり開発を進めているからだ。さらに、大学や海外のユーザーの意見も柔軟に取り入れながら、速いペースで改良を進めている点にも感心させられる」と評価する。

■ビジネスとして成長する可能性も

2月から発売しているType2も、radiation-watch.orgのスピード感や柔軟性が生かされているといえる。初期のモデル(Type1)は、外付けの9ボルト乾電池で駆動しているため、電池の消耗によって正常に動かなくなる。また、電池そのものがかさばる。フェイスブック上のサポートサイトなどで電池問題が報告されることが多かったため、電池不要型の開発を急いだ。Type2は、iPhoneから特殊な音を発生させその音をポケガ内で電気に変換、これを駆動電源としている。そのため電池の消耗による誤動作はなくなる。

また、ケース加工もさほど難しくはないとはいえ、工作の良しあしの差による精度のバラツキが発生することもある。そこで値上がり要因にはなってしまうが、ケース加工も済ませた完成品とした。

「スタートアップからこれまでの持ち出し費用は何とか回収でき、今後も開発に取り組めそうでホッとしている」とY氏。Type2はマイナーバージョンアップ版だが、これからもさまざまな展開を描いているという。

すでに取り組んでいる大きなテーマの1つが、Androidやパソコンへの対応だ。iOS機器とは異なり、多種多様な機種やOSに合わせた調整が必要になるために手間がかかるが、ニーズは大きい。また、ポケガの最大の欠点である計測時間の長さ(感度の低さ)についても、シンチレーターを使うなどして、大幅に感度を向上させたタイプも研究中だ。

このほか、これから問題が一段とクローズアップされてくる食品の放射能汚染に対応できないかも考えている。食品の計測の場合は、空間中の放射線の遮蔽が不可欠でハードルは非常に高いが、個人でも手が出せるような価格での提供ができないか検討中だ。

「基本的には個人向けの機器は今までどおり非営利ベースで続けていきたい。一方、組み込み装置など法人向けには、ライセンス提供等のスタイルも含めてちゃんと利益を上げる仕組みも作りたい」とY氏。

確かにこれまでの規模感であれば、個人ベースでも何とか回るだろう。しかし、継続的に活動を行うには、一定の利益を計上することは不可欠だ。

実際、テクノアソシエでは、radiation-watch.orgの技術をベースにしながら、携帯電話会社向けのOEM供給や、産業用機器への応用ができないかなど、本格的な収益化を模索しているところだ。

また、センサー開発会社・アイメジャー(本社長野県塩尻市、一ノ瀬修一社長)のように、ポケガを独自に改良した製品の発売や、放射線測定サービスにポケガを利用するといった、ベンチャー企業がビジネスに活用する動きも出ている。

ボランティア発の活動が大きな事業に育つ可能性もありそうだ。

radiation-watch.orgへのリンク

(丸山尚文 =東洋経済オンライン)

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