イスラエル現地で高まる「ハマス壊滅」の強硬世論、「攻撃反対」「反政権」派が訴えるのはあくまで人質解放取引、「パレスチナ和平派」は消えた

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エラン・ラハフさん(筆者撮影)

イスラムテロを専門にするシンクタンク研究者エラン・ラハフさん(39歳)は、人質問題について「イスラエル軍に入隊して最初に言われるのが、イスラエルは誰も見捨てないということ。人質は全員取り戻さねばならない。これはイスラエルにとって核心的価値だからだ」とその重要性を指摘する。

その一方、「ハマスとは戦わねばならない。イデオロギーを除去することは難しいかもしれないが、かつてのレバノンの民兵組織アマルのように、非常に小さな組織にまですることはできる」と戦闘継続を訴える。

在テルアビブの外交筋も、「イスラエルの左右を分けるのは、パレスチナ問題にどう対処するかだが、10月7日を境に左派はほぼ消滅した。二国家解決(イスラエル、パレスチナが主権国家として平和共存を目指す考え方)は問題外となった。パレスチナ人に国を与えれば、選挙をすればハマスが勝つし、行政能力も欠如している。つまり、テロ国家か失敗国家になるか、いずれかだからだ」と明言する。

「ハマス根絶についても、可能かどうかは別として、左右を問わず異を唱える人はほぼいない。ここで安保の議論をしてよく聞くのが、日本でもアメリカでも聞かない、実存的脅威(existential threat)という言葉。イスラエルがすべて正しいとは言わないが、安全保障問題は、民族、国家が生存できるかどうかで考えている」

「ハマス壊滅」を本気で追求している

私の滞在中、停戦は保たれていたが、3月18日、イスラエルは大規模な空爆を再開し、停戦合意の枠組みが崩壊しかねない状況になった。人質解放は見通せず、家族の苦しみは続くだろう。人質の命を危険にさらすとして攻撃再開に反対する反ネタニヤフ政権の大規模デモもエルサレムの国会議事堂前で行われており、国内の政治対立も激しさを増すものとみられる。

今回はイスラエル側の主張の紹介に終始したが、日本での報道が、とかく人質家族の意見や、反ネタニヤフ政権の世論を中心に取り上げる傾向がある中で、知識人一般の、自国の安全保障に対する不安、パレスチナ人への不信感は根強いことは認識すべきだ。ハマス壊滅は日本人の多くが想像するよりはるかに本気で追求している目標だ。

それをどう評価するかは人次第だが、少なくとも彼らの根本的な発想を見誤ると、パレスチナ問題の行方を見通すことは難しいだろう。

三好 範英 ジャーナリスト

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みよし・のりひで / Norihide Miyoshi

みよし・のりひで●1959年東京都生まれ。東京大学教養学部卒。1982年読売新聞社入社。バンコク、プノンペン、ベルリン特派員。2022年退社。著書に『ドイツリスク』(2015年山本七平賞特別賞受賞)『メルケルと右傾化するドイツ』『本音化するヨーロッパ』『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』など。

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