作家・橘玲が語る「幸福をもたらす3つの資本」 最も幸福度が高いのは"推し活"型の投資
では何が重要かというと、「好きな経営者や気に入った商品の株を買う」ことだと思います。スティーブ・ジョブズを尊敬し、米アップルの株を長期で持っていた人は結果的に大成功しました。“推し活”型の投資が、最も幸福度が高いのではないでしょうか。
「好き」が仕事の人が勝つ
──投資の考え方でほかの著書と通じることはありますか。
17年に刊行した拙著『幸福の「資本」論』で、幸福には「金融資本」「人的資本」「社会資本」の3つの土台が重要だと書きました。
金融資本は不動産を含む資産のことで、金融市場に投資して利益を得ます。「大損したけどよい投資」というのは、原理的にありません。
一方で人的資本は、知識やスキルといった仕事で使える資本のことです。仕事の満足度は報酬だけで決まるのではなく、「お金にならなかったけどよい経験だった」ということもあるはずです。
ただしこれからは、「好き」を仕事にした人しか生き残れない「残酷な世界」が来るでしょう。日本では「働き方改革」が叫ばれますが、仕事に100のリソースを投入できる人と、10しか投入できない人とでは、能力に多少の差があっても、前者が圧倒的に有利です。結局、ゼネラリストはスペシャリストに勝てないのです。
3つ目の社会資本は、人間関係から生まれる価値です。
人間の脳は、進化の過程で「150人ほどの小さなコミュニティーで認められること」から幸福感を得るように設計されました。同時に、不道徳な者を批判すると、脳の報酬回路にドーパミンが分泌され、快感を覚える仕組みも備わりました。
こうして道徳が最大のエンターテインメントになり、それを週刊誌やテレビが活用してきました。この「道徳的に優位に立つことで他者からの承認を得たい」という人間の本能を、さらに過激に拡張したのがSNSです。
SNSが今後どういう社会をつくっていくのかには興味がありますが、同時に恐ろしさも感じます。マスメディアへの信頼が薄れる中、ユーザーはネットに転がっている多様な情報から好きな解釈を選ぶようになりました。しかし、mRNAワクチンのように高度な技術を使ったものは、素人はもちろん専門家でもその安全性を判断することが難しくなっています。学術的な解説から陰謀論までが混在する中で、専門知識のないインフルエンサーを信じる人も出てくるでしょう。その結果、情報のカルト化が進んでしまうのです。
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