大人世代にもオーディション番組が"刺さる"ワケ ノノガにタイプロ、「推し活」が人気を後押し

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しかし最近は、加えて「尊敬できる」といった声も増えてきた。容姿やスキルにとどまらず、仕事に真摯に取り組む姿勢やたゆまず努力する姿勢、誰に対しても分け隔てなく接する姿勢など、人間性を見習いたいという意味での称賛である。

同じことは、オーディションについても当てはまる。

とりわけオーディションというコンテンツは、候補者たちが人生を懸けて挑む場であり、一人ひとりの人間性も見えやすい。候補者の努力する姿、思いの強さ、そして結果がどうであれ受けとめて次に向かおうとする前向きな姿は見る者の胸を打ち、年齢に関係なく尊敬の念を抱かせる。

その結果、オーディションに挑戦する若者が人生のお手本、ロールモデルになるという現象が起き始めている。

オーディションは社会の理想を映す鏡

さらに「タイプロ」や「ノノガ」の場合は、選ぶ側も“上から目線”ではなかったところが視聴者を惹きつける理由となっていた。

timeleszはもともと旧ジャニーズ事務所からSexy Zoneとしてデビューした。当時のメンバーは5人だったが、脱退者が続き3人に。性加害問題への対応に追われる旧ジャニーズ事務所のこともあり、悩ましい立場にあったと言っていいだろう。

そこで再出発の道として選んだのがオーディション開催だった。審査するのは現メンバーの3人で、「仲間探し」がコンセプト。アイドルとしての経験値の差はあるとしても、互いをリスペクトできる平等な関係性を築きたいという気持ちがオーディション中の3人の発言などにもうかがえた。旧ジャニーズにおけるオーディションの合否がジャニー喜多川氏という絶対的存在によって決められていたのとは対照的だった。

timeleszオーディションの様子
timelesz projectは「仲間探し」がコンセプトのオーディションだった(画像:YouTubeチャンネル「timelesz [タイムレス]」@timelesz_official)

「ノノガ」も同様である。身長、体重、年齢を条件にしないちゃんみなの方針は、自身が何度もオーディションで否定されてきた経験から来ている。

「ルッキズムと闘ってきた」という彼女は、やはりさまざまな場面で「No」を突きつけられた経験を持つ女性たちの可能性を「ノノガ」で開花させたいと考えた。ちゃんみなの候補者に等しく寄り添う姿勢は、同様の悔しさを味わってきた多くの女性の共感を呼ぶものだった。

いま日本社会は、大きな転換期にある。集団や組織も大事だが、まず自分自身がいかに生きるかという意識が強まっている。そのためには世の中を開かれた、より公平なものにしていかなければならない。

「タイプロ」や「ノノガ」といった新たなタイプのオーディションの登場は社会の流れを先取りしたものであり、大人だからこそよけいに刺さるものがあるのではないだろうか。オーディションはこれからの社会の理想を映す鏡になっている。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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