錯覚から探る「見る」ことの危うさ《第5回》--写真で嘘をつく方法、マンション広告写真がステキな理由

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この性質を利用すると、写真から、それを撮影したときのレンズ中心の位置を推定できる場合がある。これを例で示そう。
 
 図2に写っている立体が直方体であることがわかっているとしよう。3組の平行線が、V、V’、V”に消点を持っている。これを撮影したときのレンズ中心をEとする。直方体の辺は互いに直交するから、直線EVとEV’は直交する。これは、VとV’を結ぶ線分を直径とする球面にEがあることを意味する(直径の上に立つ円周角は90度であるという性質を思い出していただきたい)。
 
 同様にEは、V’とV”を結ぶ線分を直径とする球面にも、VとV”を結ぶ線分を直径とする球面にも乗っていなければならない。だから、Eはこれら3つの球面の交点である。そのような点は紙面の表側には1個しかなく、図2の写真の中央から紙面に垂直に、右下の青色の線分の長さだけ離れた点である。


 
 この点は、私たちが図2を普通に眺める視点位置より、かなり紙面に近いであろう。実際、この点まで目を近づけてこの写真を眺めると、自然な直方体に見える。しかし、普通に見たのでは、マンガチックに膨張された形に写る。特に、遠いところが小さく写っていて、近いところと遠いところの違いが強調されている。
 
 実は、不動産広告写真などでは、この視点のトリックが使われている。極端に焦点距離の短いレンズで室内を撮影し、それを普通の大きさに引き伸ばして印刷すると、見た人には遠い部分の小ささが強調され部屋の奥行きが実際より遠くまであるように感じられるわけである。



図3.2つの消点が無限遠方となる室内写真

図3は、私たちが研究成果を展示している錯覚美術館の写真である。かなり奥が深いスペースという印象を持つと思うが、実際は、この写真から受ける印象ほどには奥は深くない。これも焦点距離の短いレンズで撮影したものであるが、図2ほどにはひずみが目立たないであろう。

その秘密は、3つの消点のうちの2つが無限遠方になる姿勢にカメラを向けて撮影したことである。カメラをこの姿勢において撮影すると、図2と異なり、レンズ中心の位置を特定できない。その結果、見た人には、奥が深いという印象を与えるうえに、ひずみが目立たない。

つまり、不自然さをあまり感じさせないで、奥行きを強調することができるのである。これも不動産広告写真ではよく使われている技術である。

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