KDDI「53歳新トップ」に試される"5Gの次"の戦い 競合は大胆投資を加速、変化の時代どう挑む?
髙橋氏によると、理由は大きく2つ挙げられる。1つ目は、テクノロジートレンドの変化だ。
髙橋氏が普及を進めてきた5Gをめぐっては2024年3月、電波の割り当て時に決められた範囲での整備がいったん区切りを迎えている。通信規格はこれまで周波数の高度化を前提として、3Gから4G、4Gから5Gへと移行してきたが、5G時代には高い周波数帯の利用を拡大する難しさも明らかになっており、次世代通信が従来と同じ形で進化するかは懐疑的な声も多い。
次なる「6G」の将来像が揺らぐ中で、市場を急速に席巻しつつあるのが生成AIだ。「今、世界では5Gの次は6Gではなく、AIの時代だと言われている」(髙橋氏)。
KDDIも大規模言語モデル(LLM)の社会実装を進めるAIスタートアップ・イライザと資本業務提携を締結し、大阪・堺でAI向けデータセンターの構築を進めるなど、AI時代に対応した新たな戦略を推し進めている。今後は先端技術分野を牽引してきた松田氏が陣頭指揮を執り、こうした技術トレンドの変化への対応を加速させる狙いがある。
2つ目は、次の中長期計画を練るタイミングだ。KDDIは昨年5月、現行の中期経営戦略の対象期間を1年延長し、2025年度がその最終年度で、次期戦略策定の年にも当たる。髙橋氏は「次期中期経営戦略策定は新体制で行うのが重要だ」と述べ、このタイミングが円滑な体制移行につながると示唆した。
直近の大仕事はスペースXとの交渉
2018年にトップに就任した髙橋氏は、手堅い経営手腕で知られてきた。業績面では、2021年に政府主導で進んだ携帯電話料金値下げの影響を受けながらも、海外事業で一過性の損失を余儀なくされた2023年度を除けば、増収増益基調を維持。自己株買いなど株主還元の積極姿勢も目立ち、足元のKDDIの株価は、髙橋氏の社長就任当時から2倍弱まで上昇している。
経営戦略や新規事業を担いながら、その経営をそばで支えてきた松田氏。直近の大仕事は、イーロン・マスク氏が率いるアメリカの宇宙開発企業、スペースXとの提携だ。
KDDIは2023年にスペースXと新たな業務提携を締結。同社の衛星ブロードバンドサービス「スターリンク」を活用した衛星とスマホの直接通信サービスを、今春ごろから展開する準備を進めている。衛星通信をはじめとする「NTN(非地上系ネットワーク)」は、空や宇宙などから広範囲の通信を実現し、災害にも強い次世代の通信として期待される。語学堪能な松田氏は、スペースXとの提携の交渉役として成果を収めてきた。
アップル、グーグル、クアルコムといった海外企業との協議も過去に経験したといい、「いろんなパートナーとうまく会話をし、お互いのウィンウィンポイントを探る」(松田氏)点が強みと自負する。海外巨大IT企業を軸に次世代のIT技術やサービスが次々と現れる中、グローバルな交渉力が期待されているといえる。
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