まるで鉄道模型？小さな列車｢軽便鉄道｣の記憶 線路幅の狭い｢ナローゲージ｣の懐かしい姿

軽便鉄道の多くは、モータリゼーションの進展にともない昭和30～40年代にほとんどが姿を消してしまった。そんな中で、筆者が現役時代を取材し、印象に残っているのが尾小屋鉄道（石川県）と下津井電鉄（岡山県）だ。

尾小屋鉄道は、北陸本線の小松駅近くにある新小松駅から尾小屋鉱山がある尾小屋駅まで16.8kmを結んだ非電化の軽便だった。開業は大正年間の1919年で、鉱山輸送で栄えたが1971年の閉山後は過疎とモータリゼーションの影響を受け、1977年3月に廃止となった。筆者は1969年12月の初訪問以来この鉄道の魅力に取りつかれ、廃止まで何度も訪れた。

尾小屋鉄道の尾小屋駅。のどかな昔日のローカル線の雰囲気だ（撮影：南正時）

始発の新小松駅は、現在の北陸新幹線小松駅のホーム直下にあった。映画「男はつらいよ」の第9作「柴又慕情」の冒頭にはこの鉄道の金平駅が登場する場面があり、現役時の姿を知ることができる。沿線は山間部にいくつかの駅跡、トンネルが残るほか、展示館には貴重なナローSLのほかに気動車数両が保存され、鉱山資料館にも鉄道の資料が数多く展示されている。

尾小屋鉄道の新小松駅。この場所は北陸新幹線の小松駅となっている（撮影：南正時）

瀬戸内海を見て走った小さな電車

下津井電鉄は現在も同じ社名でバスの運行などを行っているが、鉄道は1990年末まで児島―下津井間6.3kmを走っていた。もともとは本州・四国間連絡の役割を担うべく茶屋町―児島間21kmを結んでいたが、1972年に大半が廃止されて短い路線となった。

下津井電鉄の下津井駅。右は車体に自由に落書きができた「赤いクレパス号」（撮影：南正時）

線路は鷲羽山を取り巻くように走り、車窓からは瀬戸内海が望まれた景勝路線で、車体に自由に落書きできる電車が人気を呼ぶなど観光要素もあった。1988年の瀬戸大橋開通に合わせて奇抜なデザインの新車を導入するなどして観光路線化へ舵を切ったものの、残念ながら観光客の訪問は増えず約2年後には廃止となってしまった。車両の多くは終点の下津井駅構内で保存されている。

下津井港を眼下に見て走る下津井電鉄の電車（撮影：南正時）