「フクシマ論」筆者が仕掛ける福島ツアーのうまさ 参加者が口にする"頭でっかちではない魅力"

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「物語の分厚さが違うんです。何もしなければ『死の町』になっていた。それでも生き抜き、再生してきた。つまり、生命力を感じさせるという点では、ほかの地域に負けるわけがないんです」(開沼氏)

開沼氏によれば、酒づくりを主導する主体も世代も、ルーツも多様だという。50代もいれば20代も、地元で生まれ育った人間も外からの移住者もいる。共通するのは「結びつける力」だ。

例えば南相馬市小高にある醸造所「haccoba」は、どぶろくの製造方法をベースに、酒の新たな可能性を模索する。生産している「猪口酒 −しょこらっしゅ−」は、東京・蔵前のクラフトチョコレートと長野の老舗七味唐辛子屋との連携によって生まれた。さわやかさとスパイス感との共存は、もっと飲みたいと思わせる魅力をもつ。

また、定番酒の「はなうたホップス」は、唐花草(からはなそう)から作られる。これはビールの原料であるホップの近縁で、日本在来の野草だ。口に含むとビールのようなさわやかさとコメの甘さのハーモニーが楽しめる。あまり注目されていない野草と、近所でとれたコメとを酒を通して結びつけているのだ。

再ブランディング化に向けた“うまいツアー”

酒といえば、うまい魚がほしくなる。福島の魚は昔から「常磐もの」と呼ばれ、質のよさやうまさでブランドを確立していた。しかし震災後、ネットによる風評が広がり、リアルな世界にも飛び火して禁輸措置が多発。生産者だけでなく、福島の経済や人々の暮らしにも暗い影を落とした。

「福島を追い続けてきた学者として、リアルな世界で何ができるのか、ずっと考えてきました」と言う開沼氏は、自ら海の世界に飛び込んだ。10年前から船で福島の海に繰り出し、見よう見まねで魚釣りを始めたのだ。

あんこう鍋は冬の「常磐もの」の最高峰だ(写真:開沼博氏提供)

今ではセミプロ並の腕前となり、釣った魚を自らさばいて仲間たちに振る舞ったり、釣り体験ツアーなどを企画したりしている。そうした発信を続けるうちに賛同者も増え、今では魚釣りだけでなく、福島の酒や温泉、自然などの再生を目指すツアーを開催。直近では、1月11日から2泊3日で「福島コモンズ」と題するプレスツアーを敢行して話題となった。

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