ソフトバンク"脳細胞"を活用する異例の取り組み 次世代のAIとして2050年の実用化を目指す
この圧倒的な省エネ性と適応力にヒントを得て、“脳細胞そのものを計算資源とみなす”というのがBPUの基本コンセプトだ。ソフトバンク先端技術研究所では、BPUを「CPUやGPU、そして量子コンピューター(QPU)に続く“第4のアクセラレーター”」と位置づける。未知の環境でも素早く学習し、高速に適応する能力を、まるごとテクノロジーに活かせないかと考えている。「従来のCPUやGPU、量子コンピューターと共存する形で、新しいアクセラレーターとして実現を目指しています」と、ソフトバンク先端技術研究所の杉村聡太氏は説明する。
“小さな人工脳”が示す学習能力
BPU構想を具体化するカギとなるのが「脳オルガノイド」である。これはiPS細胞から作製した0.5~1センチほどの球状組織で、中には神経細胞(ニューロン)やグリア細胞が存在する。
ニューロンは細胞膜にある“イオンチャネル”という微小なゲートを開閉し、電位変化(活動電位)を起こすことで情報をやりとりする。ソフトバンクと東京大学生産技術研究所の共同実験では、このオルガノイドを電極デバイスにのせ、外部から電気刺激を与えて学習能力を探った。
具体的には、規則的な刺激(報酬)とランダムノイズ刺激(ペナルティ)を交互に与えたところ、報酬刺激が続くほど神経活動が高まり、ペナルティ刺激が続くと活動量が落ちるなど、“脳細胞特有の学習らしき現象”が観察されたという。
さらに簡易的なゲーム課題を設定し、成功時の報酬刺激と失敗時のペナルティ刺激をフィードバックする強化学習の実験では、20分ほどの連続刺激で課題の成功率が1.5倍に高まったケースがある。わずかな電気刺激で目に見える変化が得られる点が、脳オルガノイドの興味深い特徴だ。
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