「バーチャル世界」で希望格差を埋める若者たち 「努力が報われない仕事」が早々に見切られる訳
インターネットが発達した現代では、わざわざゲームセンターまで出向かなくても、自宅でネットゲームをしていれば、仲間と出会え、協力しながら課題をこなして、高得点を得る(敵を倒す)という成功体験を得ることができる。それが通勤途中の電車の中でも可能なのだ。まさに現実の希望格差をバーチャルな世界で埋め合わせている。
疑似仕事としてのマニア、オタク
一昔前、昭和の時代には、マニアというと特殊な趣味の世界であり、オタクと言えば「1人で部屋に籠もり、公には言えないものを密かに集めているネクラの男性」というイメージがあった(例えば、大塚英志『「おたく」の精神史』2004年)。ここでは、「オタク」を、1つのことにこだわり様々なモノやデータを収集して楽しむ人と定義しておこう(小出祥子『オタク用語辞典 大限界』2023年)。
そして、平成を通じて、そのオタク、マニアに対する評価は好転し、令和に入ってからは、イメージが好転しているだけでなく、人数的にも増え、女性の参加も増えている。これにもリアルな仕事の世界での希望の喪失の進行を背景にして、マニアやオタクがしていることが「疑似仕事」化しているのだと解釈している。
マニアやオタクの基本は、「収集」という努力にある。努力して、特定の分野の様々なグッズや情報、そして、体験を収集することにお金や時間をつぎ込む。そして、その収集物が、何らかの形で、その仲間たちから評価されることを目指す。
つまり、リアルな仕事の世界のバーチャル版を趣味仲間の間で作っているとも言える。そこには、鉄道マニアや釣りのような伝統的で確立された趣味世界もあれば、アイドル・オタク、コスプレ趣味など比較的新しい世界もある。
もちろん、趣味のコミュニティは、昔からあった。例えば、鉄道マニアは、社会学者の中央大学 辻泉教授が調査しているように、戦前から存在していた(辻泉『鉄道少年たちの時代』2018年)。しかし、一昔前は、富裕層である一部の好事家がたしなむものであり、少数の仲間と楽しむことが多かったと考えられる。
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