秘策はドクターイエロー、JR東海の観光戦略 全国で過熱する「観光列車ブーム」にモノ申す

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普段は入ることができない車両基地は観光資源になりうる(撮影:尾形文繁)

「ななつ星in九州」に代表されるJR九州の観光列車戦略に触発される形で、JR東日本やJR西日本もこぞって観光列車を各地に送り出している。

だが、JR東海は独自の理念に基づき、観光列車は開発せず、東海道新幹線の性能アップに力を注いでいる。

N700系に代表される新幹線の車両は、ビジネス客にも配慮し、機能性を重視した造り。JR九州の観光列車のような面白みには欠ける。

ただ一方で、JR東海は車両基地やドクターイエローといった既存の資産を観光戦略に使い始めた。観光列車をわざわざ作らなくても、集客ができるキラーコンテンツが自社にある。昨年の新幹線50周年で、JR東海はこのことに気づいた。

観光資源は自社の車両だけではない

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「日本列島大周遊の旅」のパンフレット

JR東海の“気づき”は新幹線にとどまらない。自社の運行エリア外でも、全国に張り巡らされた他社の路線を活用すれば、十分な観光資源になりうる。

今年5~6月には、日本最北端の駅・稚内から日本最南端の駅・西大山まで10日をかけて鉄道でめぐる「日本列島大周遊の旅」を2度にわたって実施した。

寝台特急「カシオペア」から近鉄特急「しまかぜ」まで、25種類の列車に乗車する。鉄道に乗るだけでなく、伊勢神宮、姫路城、出雲大社など、全国の観光名所も訪れる盛りだくさんの内容だ。1人当たりの料金44万円は、むしろお得ともいえる。

6月25日朝、カシオペアで札幌から上野駅に戻ってきたツアーの一行に話を聞いた。「日本一周をしてみたかった」。都内在住の60代の夫婦はこう語った。自分で列車やホテルを予約するのは、かなり大変だ。確かにこのツアーに参加すれば、手っ取り早く日本一周を達成できる。

もっとも、内容を詰めこみすぎたせいか、「移動が駆け足だった」という声も聞かれた。来年も実施されるとすれば、今回の参加者の声を反映して、一層満足度の高いものとなるに違いない。

新たな観光列車を作ることだけが“おもてなし”ではない。自社の、そして他社の既存の鉄道インフラを用いてできることは、いくらでもある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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