江戸のメディア王・蔦重を駆り立てていた原動力 NHK大河「べらぼう」主人公に学ぶ仕事のコツ
「まったくありがてえもんだ、出る杭は打たれるってな。つまりうちが江戸で頭一つ抜けた版元だってお墨付きをもらえたってことだ」。
これは、映画『HOKUSAI』の中で、阿部寛さん演じる蔦重が、「寛政の改革」の最中に藩から目をつけられ、次々に制約を課されていくなかで発した一言です。
松平定信による「寛政の改革」以前の蔦重は、次から次へと斬新なアイディアによるヒット作を世に送り出し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。
江戸の人々は、蔦重の次回作を今か今かと待ち焦がれている状態。「こんなにも人々を熱狂させるとは、メディアの力はなんて偉大なんだ!」と、彼自身もその影響力の強さを噛みしめていたに違いありません。
しかしながら、寛政の改革が始まると、風紀の取り締まりや、出版物の規制の機運はどんどん高まっていきます。型破りな発想力によって出版界で強い存在感を放っていた蔦重も、次々に制定される禁令に、息苦しさを感じたことでしょう。
江戸庶民たちが絶賛した物語
けれど蔦重は、そこで幕府の思惑通りにおとなしくなるような男ではありません。
不本意にも抑圧されるのなら、その状況すらも肥やしにしてやる。そんな気概で、ますます作品づくりに魂を燃やすようになりました。
朋誠堂喜三二の黄表紙(ストーリー性の高い、大人向けの絵本)、『文武二道万石通』は、まさにそのような心情のなかで生み出した作品と言えるでしょう。
これは源頼朝とその家臣を中心に繰り広げられる、鎌倉時代が舞台の物語。しかしながら、教養を持たず、風流を理解しない権力者が、気に食わない武士たちを一方的に処罰していく様子は、松平定信を揶揄したものであることは明らかでした。
禁欲的な世の中に息苦しさを感じていた江戸庶民たちは、その気持ちを代弁してくれるこの物語を絶賛しました。けれど、誰が見ても定信を批判しているとわかるこの作品を、幕府は当然、問題視します。喜三二は厳しく叱責され、黄表紙の世界から身を引くこととなったのです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら