「なぜ嘘をついてはいけない?」ローマ偉人の教え クインティリアーヌスと三島由紀夫に通じる思想

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イタリアの学校での口頭試問なんてまさにそんな空気でした。私の愛するプリニウスの『博物誌』も、見てもいないものをさぞ見てきたかのように書いていますけど、あれはあれでいいんですよ。読む人も、そこに絶対の信憑性なんて求めてませんから。半分洒落だと思って面白がっていればいいのです。

なぜ嘘をついてはいけないのか

ヤマザキ:アメリカ大統領選の候補者のスピーチなんかも、大言壮語に古代からの弁論の感じが出ている気がしますね。真実よりも、いかにインパクトのある言葉で民衆の注意力を集められるか。

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ラテン語さん:クインティリアーヌスが言っているのは頭の良さ全般というより記憶力なので、三島由紀夫とはまた少し違いますが、ある人にAを言い、また別の人にはBと言ったというような嘘の記録を覚えて破綻がないようにするのは難しいでしょう。

ヤマザキ:そうなると、やはり記憶力だけではなく、テクニックを要するので、頭脳を駆使しないとうまくいきませんよ。浮気の言い逃れなんかは典型例ですよね。

ラテン語さん:もちろん私は浮気をする気もないんですけど、仮にしようと思ったところで、記憶力にあまり自信がありません。

ヤマザキ:ならこんな仮想もやめておきましょう(笑)。

クインティリアーヌスも三島も、つまり嘘を侮るな、と言っているのだと思います。嘘をつく前に、自分が嘘を貫き通せるキャパシティがあるかどうかをよく吟味しなさい、嘘を徹底的に管理するのは大変だから、結論としては嘘はお勧めできません、という捉え方もできます。それでも頭のいい人はやってのけるんでしょうけど。

ラテン語さん:仮に自分が頭がいいとしても、そんなことに頭の良さを使いたくないものですね。

ヤマザキ:嘘で自分をすっぽり覆い隠している人も世の中にはいますけどね、そんな生き方は虚しいんじゃないかなあ。記憶力や知恵の維持も大変そう。おっしゃる通り、嘘に費やせるエネルギーがあったら、他のことに使いましょう。

ヤマザキ マリ 漫画家・文筆家・画家

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やまざき まり / Mari Yamazaki

1967年東京都生まれ。漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。15年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。17年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ章受章。著書に『プリニウス』(新潮社、とり・みきと共著)、『国境のない生き方』(小学館新書)、『オリンピア・キュクロス』(集英社)など多数。

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ラテン語さん ラテン語研究者

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らてんごさん / Ratengosan

ラテン語研究者。栃木県生まれ。東京外国語大学外国語学部欧米第一課程英語専攻卒業。ラテン語・古典ギリシャ語の私塾である東京古典学舎の研究員。高校2年生でラテン語の学習を始め、2016年から X(旧Twitter)においてラテン語の魅力を毎日発信している(アカウント名: @latina_sama)。研究社のWEBマガジンLinguaにて隔月連載中(シリーズ名: 名句の源泉を訪ねて)。ラテン語を読むだけでなく、広告やゲームなどに使われるラテン語の作成や翻訳も行っている。

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