電力市場の相場操縦でJERA「不正の意図はない」 規制当局が認定、JERA幹部「現場把握に課題」

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

──卸電力取引のルールによれば、JERAのように圧倒的に大きな発電能力を持つ企業は、相対取引など売り先の見つからない余剰な電力の全量を、発電コスト相当の「限界費用」でJEPXに供出(=売り札を出す)することが特に強く求められています。しかしながら、JERAの東京エリアでの取引では、送電線の一部が補修工事中などで「系統制約」が起きた際 、発電機自体を止めてしまい、いっさい売り札を出さないという、間違ったやり方を続けていました。それが今回、取引ガイドラインで禁止されている売り惜しみ行為に当たると認定されました。

のぐち・たかし/1969年生まれ。1994年東京電力入社。その後、長年にわたって火力発電事業の企画・運営、国内事業開発等に従事。2019年4月JERA最適化本部最適化戦略部長、2023年7月販売統括部長などを経て、2024年10月執行役員(撮影:梅谷秀司)

当社は2019年4月に、東電および中部電力から火力発電事業を譲り受けた。この時、担当する現場ではそれ以前と同様の運用をしていれば問題ないと考えていて、取引ガイドライン違反に当たるとの認識がなかった。系統制約が発生している時期にはその発電機は停止させていた。それゆえ市場供出はできないものと考え、現に供出していなかった。

社内では全量供出はできていないという認識はあったものの、従来の運用を継続していることもあり、取引ガイドライン違反になるという意識が低かった。私としては現場任せにしていたことを大きな反省点ととらえている。

──JERAによれば、中部エリアでは同様の問題は起きていなかったといいます。同じ会社なのになぜ対応に違いが生じたのでしょうか。

中部エリアでは、「スマートブロック」と呼ばれる、系統制約時でもまとまった量の電力を取引できるツールがすでに導入されていた。実際の利用開始までにはタイムラグもあったが、東京エリアと比べて送電線で送れる量に余裕があったため、系統制約はあまり発生しなかった。

電取委は不当利得の存在を示唆

──4年半も放置せず、途中で気付くタイミングはなかったのでしょうか。

2021年11月に国の取引ガイドラインが改定され、それまで自主的取り組みにとどまっていたところから、限界費用での全量供出などのルールが取引ガイドラインで明確に規定された。

当時、当社としてどのようにシステムを変更しなければならないのかといった議論が、(未供出の問題を引き起こした)当社の東日本プラント運用センター内で議論されていた。

その際に、系統制約時に発電設備が止まっていることによる未供出の事象についても解決しなければならない課題として認識された。しかし、需給調整市場への対応など、ほかにもさまざまな重要課題があった中で優先順位が劣後してしまい、取引システムの改修が遅れてしまった。

──そもそも何がきっかけで問題の存在が明らかになったのでしょうか。

2023年4月に別の未入札事案があり、そのことを電取委に報告した。これをきっかけとして電取委に過去の取引データを任意で提供したところ、電取委から「こういう事象(=系統制約時に売り入札をしないこと)はどのような考えによるものなのか」との確認があった。

──野口さんはいつ問題を把握したのでしょうか。また、どのような認識をお持ちでしたか。

私が問題を把握したのは2023年8月下旬。電取委から問題を指摘するメールをいただいて初めて確認した。私自身、個別具体的なオペレーションまでは把握できていなかった。実際に系統制約がある時に、当該の発電機を止めておくのは普通の運用だろうと認識していた。反面、全量供出のルールから外れているとの認識はあまりなかった。

──電取委の11月12日付の資料によれば、きちんとルールに基づいた運用をしていたのであれば、データが現存する2020年10月から2023年10月までの3年余りの間に、約54億キロワット時の売り入札が追加的になされていた可能性があり、そのうち約6億5000万キロワットの売り入札が約定していた可能性があるといいます。そのうえで、JERAについて、未供出による約定価格の上昇により、相応の利益をスポット市場から得ていたことも推察されると電取委は述べています。つまり、不当利得の存在を示唆しています。

追加で入札できた量が54億キロワット時だったということは、電取委の発表資料を通じて知った。当社としてその影響を評価する立場にはないと思っている。

次ページ2020年冬の異常な市場高騰との関係は?
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事