銀行が恐れる日銀「預金準備率引き上げ」の現実味 銀行の「棚ぼた利益」に対する国民の不満も
海外有識者の中には「大規模な付利により銀行の財務が改善することで貸し出し態度が緩み、利上げによる金融政策効果が低下する」との指摘もある。より効果的な金融政策運営を行うためにも、預金準備率の水準をどう設定するのかは日銀にとって重要な課題といえる。
とはいえ、日本の準備預金制度は法律で定められたものであり、預金準備率の変更に当たっては慎重な議論が求められる。準備預金制度は1957年に導入され、1991年以来、預金準備率は変更されていない。
法律では「通貨の調節を図るため必要があると認める場合には」日銀が預金準備率を変更できるとしている。しかし、預金準備率の上限は20%と定められており、「金融機関の預け金の保有に伴う負担を考慮しなければならない」とも記されている。金融機関の収益との兼ね合いを意識する必要があるわけだ。
むしろ金融機関は儲けすぎ?
預金準備率を引き上げた場合、銀行は金利の付かない資金を日銀当座預金により多く置くよう「強制」されることになる。そのため国債等で運用していれば得られたであろう収益の機会損失が発生することになる。
しかし、「海外では金融機関への『棚ぼた利益』への不満から預金準備率の引き上げが要求されている」と日本総研の河村氏が指摘するとおり、むしろ金融機関が「儲けすぎている」状況に鑑みて預金準備率の引き上げが正当化されるとの見方もある。確かに、0.25%の利上げのたびに金融機関が得られる年間1.2兆円もの金利収益は、日銀に預けておくだけのノーリスクでもあることから「棚ぼた利益」といえる。
実際、日銀の当座預金(超過準備)から得られる「預け金利息」が収益を牽引している銀行は多い。政策金利が上がるにつれてその効果は高まるため、業界関係者の中には「国民の間で銀行批判が起こるのではないか」と心配する声すらある。
銀行の中には利上げによる業績影響を試算し、公表しているケースもあるが、その多くは預け金利息の増加を加味したものとなっている。そのため預金準備率が引き上げられた場合には、収益の下振れ要因になりかねない。
実際、スイス中銀が預金準備率を引き上げた際には、同国銀行最大手UBSの株価が1.5%以上も下落した。日本でも、日銀が預金準備率の見直しに動くようなことがあれば、金融機関からの猛反発が予想される。河村氏は「銀行に配慮したうえで、都銀や地銀等で差をつけながら預金準備率を変更する形もありうる」とも話す。
国民感情を踏まえつつ、金融政策の有効性を高めるためにも、預金準備率の引き上げは日銀にとって現実味のある政策といえる。政策金利の動向に注目が集まる一方で、預金準備率の行方も新たな焦点となりそうだ。
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