ハリウッド映画の超巨額投資がペイする理由 ハーバード流「ブロックバスター戦略」とは

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1999年、映画・テレビスタジオのワーナー・ブラザースの社長兼最高執行責任者(COO)に就任したばかりのアラン・ホーンは、思い切った戦略に打って出た。映画製作「ゴーサイン」の権限を委ねられたホーンは、年間製作映画およそ25本の中から、いわば企業の屋台骨となる看板映画――広く観客を呼べる映画――を4、5本選び、その映画の製作とマーケティングに多額の予算を集中的に割り当て、力を入れることにしたのだ。

ほかのスタジオのトップも、もちろん莫大な予算を投じて映画製作を行うことはあった。だがホーンによれば、「実際に戦略として追求した」者はかつて誰もいなかった。

集中投資により11年連続興行収入10億ドル超え

「こちらがかけた費用の多寡にかかわらず、観客が映画を観るときに払う値段は同じだ。製作費が1500万ドルでも1億5000万ドルでも関係ない。だから、多額のカネを費やすのは常識にそぐわないかもしれない」と、ホーンは著者に語った。

「要は、映画館に足を運んでもらうためなんだ。多額の製作費をかけた映画のほうが、映画館に足を運んでくれそうなファンの気持ちに訴えるはずだ。スターが出ていれば客を呼べるが、それには費用がかさむ。特殊効果も客を呼べるが、やはり費用がかさむ。しかも、観客に宣伝する必要がある。つまり、実際にイベントなどを催して市場に売り込む必要があるが、それにはもちろん、さらに費用がかさむ。会社としては、1年で限られた本数の映画にしか、そんな多額の予算を投じることはできない」

2011年を迎える頃、ホーンは前代未聞の連勝を収めていた。彼の指揮の下、ワーナー・ブラザースは、全米興行収入が11年連続で10億ドルを超えた史上初の映画スタジオとなった。

ワーナー・ブラザースが、2007年から2011年までに配給した作品の投資とリターンをグラフにすると、データ点がランダムにまき散らされているような印象を受ける。データ点が乱雑ということは、劇場公開映画の需要が予測不可能だということを示す。

ワーナー・ブラザースは、多くの有名な映画シリーズ、たとえば『ハリー・ポッター』やバットマンの『ダークナイト ライジング』などにそうとうな投資を行った。いくつかは大成功を収めたものの、大作映画の中にも不振にあえぐ作品もあった。特に、製作費1億2000万ドルをかけた『スピード・レーサー』は、まぎれもない失敗に終わった。日本のアニメ番組を原作とし、エミール・ハーシュ主演で2008年に公開されたが、全世界の興行収入は1億ドルに満たなかった。

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