「マイナ保険証」に見た"日本の競争力低下"の理由 日本のデジタル政策はなぜ迷走しているのか

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日本のデジタル政策は、迷走しているとしか言いようがない。それを象徴するのがマイナ保険証だ。今年の12月から従来の保険証が使えなくなると思っていたのだが、いつの間にか、「2024年12月2日から新規発行はされないが、資格喪失をしない限り2025年12月1日まで利用可能」ということになっていた。つまり、従来の保険証でも使えるという。

紙の保険証の廃止には反対が強く、マイナ保険証の利用は進んでいなかった。このため、デジタル庁は方向転換し、紙の保険証も使えるという方向に転換しているのだ。マイナ保険証への転換は失敗に終わったと考えざるをえない。

何がメリットかはっきりしない「マイナ保険証」

マイナ保険証の利用が進まなかったのは、患者の立場から見て、何がメリットなのかがはっきりしなかったことだ。その反面、誤った情報が紐付けられるなどのケースが発覚し、情報管理に対する不信が強まっていた。

マイナ保険証への切り替えは、患者のためというよりは、マイナンバーカードの普及自体が目的だったと考えざるをえない。

そもそも、マイナンバーカードの利用価値がない。私が便利だと思ったことは、一度しかない。それは、印鑑証明書を、近くのコンビニエンスストアでマイナンバーカードを用いて取得できたことだ。確かに便利だと思ったのだが、よくよく考えてみると実におかしい。

なぜなら、これは印鑑を用いる仕組みを便利にするというサービスだからだ。では、マイナンバーカードとは、アナログ事務処理の代表である印鑑システムを継続させるためのものだったのか?

しかし、脱印鑑は、デジタル政策の大きな目標だったのではないだろうか?

こう考えると、頭が混乱してしまった。

以上で見たように、日本のデジタル政策には、そもそも方向性の選択の点で大きな誤りがあるとしか思えない。こうしたことが、デジタル競争力の低下に結び付いていくのであろう。

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野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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