人類脅かすプラスチック汚染に歯止めはかかるか 生産規制、問題プラ禁止めぐり条約交渉大詰め

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企業からも、骨太の内容の条約を求める声が上がっている。WWFジャパンが事務局を務める「国際プラスチック条約 企業連合(日本)」にはキリンホールディングス、日本コカ・コーラなど現在、10社が加盟している。同連合は11月20日、環境省、経済産業省、外務省の条約交渉担当者に要望書を提出。「法的拘束力のある国際ルールに基づいた野心的なプラスチック条約」の制定を求め、それが企業にとってもプラスになると主張している。

同連合のメンバー企業であるユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの松井さやか・代表職務執行者ジェネラルカウンセルは、「条約が存在していない状況で企業が自主的に努力しても対策には限界がある。きちんとした条約があれば、それをベースに国内での法整備も進み、リサイクルなどの対策に取り組みやすくなる」と指摘する。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスが進めているポイント付与のUMILEプログラム。使用済みプラスチック容器を回収し、さまざまな製品に生まれ変わらせている(撮影:筆者)

ユニリーバはこれまで、シャンプーなどの製品で使用するプラスチックの量の削減や、製品のリサイクルに取り組んできた。ボトルの軽量化などの努力により、日本での2023年のプラスチックの使用量は2019年比で27%削減という成果が出ている。シャンプーなどのペットボトルはほぼすべての原料についてリサイクルペットへの切り替えができているという。

だが、ペットボトル以外のプラスチックに関する取り組みは壁に直面している。プラスチック製品をリサイクルして再び製品化する「水平リサイクル」については国内での再生ポリエチレン原料の調達がままならず、再生原料を輸入に依存しているという。

「飲料用のPETボトルを除いてプラスチックの水平リサイクルシステムが確立していない日本では、企業としての取り組みに限界がある。日本はヨーロッパと比べても後れを取っている」(松井氏)

なお、リサイクルだけでは解決のできない問題も多く、容器包装の削減や商品の提供方法の見直しも必要になってこよう。

プラ条約交渉は、国際協調の正念場でもある

気候変動やプラスチック汚染問題などの国際交渉に、国際環境NGOの一員として関与してきたグリーンピース・ジャパンの小池宏隆シニア政策渉外担当は、今回のプラスチック汚染条約の交渉について、「多国間協調を機能させるうえでもきわめて重要だ」と説明する。

プラスチック条約に関する国際交渉の成立を求めて世界からカナダの首都オタワに集まった市民(提供:グリーンピース)

プラスチックは今後も生産量が増え続ける中、プラスチックの生産や消費、廃棄などのライフサイクルベースで排出されるCO2は大きな割合になりつつある。今年4月に発表されたアメリカのローレンス・バークレー国立研究所の推定によれば、2050年には地球の平均気温の上昇を1.5度に抑えるうえで許容されるカーボンバジェット(炭素予算)のうちの2~3割を、製品や製品原料として使用するための一次プラスチックの生産が占めるようになるという。プラスチックは化学物質の問題で人間や生物の健康を脅かすだけでなく、気候変動問題とも深くかかわっている。

また、アジアやアフリカなどの途上国には、先進国で発生したプラスチックごみが輸出され、焼却による大気汚染や河川、海への流出といった公害問題を引き起こしている。こうした国を超えた問題は、「世界共通のルールがなければ解決できない」(小池氏)。

ルールができれば、対策を実施するための資金も必要になる。そこでも国際間の合意が必要だ。

日本の責任も重い。日本の容器包装プラスチックごみの1人当たり排出量はアメリカに次ぐ世界第2位であり、廃プラスチックの輸出(2023年)でもドイツやイギリスに次ぐ世界第3位となっている。日本はリサイクルを中軸としたサーキュラーエコノミー(循環経済)を標榜しているが、実際は大量生産・大量廃棄から脱却できていない。

きちんとした条約で合意するためにも、日本にはリーダーシップを発揮する責務がある。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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