人類脅かすプラスチック汚染に歯止めはかかるか 生産規制、問題プラ禁止めぐり条約交渉大詰め

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高田教授が主張する、生産量の総量規制は、今回のプラスチック条約交渉の最大の焦点になっている。

石油などを原料とするプラスチックは、生産の過程で温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)を大量に排出する。そのため、気候変動問題の観点からもプラスチック問題は重要だが、条約交渉では産油国を中心にプラスチックの生産量削減自体に強く反対する声がある。

他方、ヨーロッパ連合(EU)やアフリカ、南太平洋などの島嶼国は、条約で生産量の削減目標を定めるべきといった立場を取る。バイデン政権のアメリカも最近になって、EUなどと近い主張をするようになっている。日本は中間的な立場を取ってきた。

生産規制とともに重要なテーマの一つが、特定の化学物質・製品の規制のあり方だ。これまで環境中で残留性や生物蓄積性、生物や人体への有害性などが懸念される化学物質については、「ストックホルム条約」により規制されてきた。現在、国内で輸入、製造、使用されている数万種類にのぼるとも言われる化学物質のうちで、条約で規制対象となっている化学物質の数は数十種類にとどまる。

そこで今回の条約交渉では国際的な統一基準を設けたうえで、有害な化学物質や、不要な使い捨てプラスチックをリスト化し、国際的に禁止すべきだという主張がなされている。ここでも、規制に反対の立場の産油国と、EU、アフリカ諸国などとの間で意見の隔たりが大きい。

もう一つの焦点が、プラスチック汚染対策の資金をどの国が多く負担するかという問題だ。新興国や開発途上国は先進国に多くの負担を求める一方、日本を含む先進国はそうした考えに距離を置いている。また、途上国は、資金面での政府の役割を重視する一方、先進国側は既存の支援制度の枠組みの活用や、民間を含めた多様なセクターが関与する必要性を強調している。

骨太の内容の条約で合意できるか

そうした中、わずか1週間の会期で条約案の合意ができるのか、前途が危ぶまれている。そのことを物語るように、10月30日に明らかにされた条約交渉の議長による非公式の条文案は、記述内容が不完全なものになっている。

というのも、プラスチックの生産規制や、プラスチックに使用される懸念のある化学物質の規制、資金メカニズムの設立を含む資金調達という3項目については、意見の隔たりが大きいことが理由で、条文案に含まれる要素を列挙したにとどまっているためだ。

プラスチックの生産に関する条文については、「そもそも何をこの条文に入れるのか、この条文が必要なのかといったことから、議論を始めなければならない状況にある」(環境省の小林豪・プラスチック汚染国際交渉チーム長)。

生産規制についての議長の案では、「締約国に対して、持続的な生産や消費を促進するための措置を取るよう推奨する」といった記述にとどまっている。

こうした状況について、WWFジャパンの三沢行弘サーキュラーエコノミー・マネージャーは、「生産規制に関しても、法的拘束力を伴った世界共通のルールを設ける必要がある。それなしに各国の事情に任せるということになれば、今までと大差がなく実効性はない」と指摘する。そのうえで、「緩い内容の条約制定に合意してしまうと、その後の締約国会議で厳しいルールに修正しようとしてもそれ自体がきわめて困難になる」(三沢氏)という。

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