「インフレ期には株式投資を」に抱く強烈な違和感 株式や不動産投資へのリスクが語られていない

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その場合、収益率10%でリスクのないチャンスと、平均収益率100%でリスクのあるチャンスが同じように評価されていることになる。平均収益率の差である90%は、リスクを取ることに対する報酬だ。これを「リスクプレミアム」という。

なお、以上では、課税の影響を考慮していない。収益率の比較は、多くの場合、税引き前利益についてなされる。しかし、収益率の比較は、いうまでもなく、税引き後の利益についてなされるべきだ。

どの程度のリスクを取れるかは、人によって違う

リスクと平均収益率のどのような組み合わせがよいかは、年齢や生活の余裕度、貯蓄額など、さまざまな条件に依存する。いちがいに、高リスク・高収益が望ましいとは言えない。

巨額の資産を持つ人は、その一部をリスクの高い資産に投資することができるだろう。かりにその投資で損失を被ったとしても、他の資産でカバーできるから、全体として困窮するような事態にはならないからだ。

また、年齢によっても違う。年齢が若ければ、失敗しても、後で取り返せるかもしれない。しかし、高齢者になっては、取り戻すだけの時間の余裕がないかもしれない。

一般に、高齢者はより安全を重視すべきだろう。また老後のための貯蓄もそうだ。余裕があればその部分をリスクの高い投資にするということは考えられるが、基本は安全資産である必要がある。

このようなことを無視して、「インフレ期には預金でなく株式投資」といった類のアドバイスをするのは、誠に無責任だと言わざるをえない。

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野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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