中国で相次ぐ「無敵の人」政府が恐れる"爆発の芽" 豊かな頃から一変、経済不安が渦巻く社会に

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中東の民主化運動が自国に波及するのを恐れたのだろう。中国政府は以降、メディアを一層厳しく監視・統制するようになった。

Googleは検閲を理由に中国から撤退したし、LINEもある日突然使えなくなった。共産党から見て都合の悪い情報を遮断し、テクノロジーを駆使して国民の生活を監視する。自由を制限された国民は不満を抱かないのか、暴発しないのか。数多くの日本人にそんな疑問をぶつけられた。

身の回りに中国の悪口を言う中国人はたくさんいた。医療制度、教育制度は不公平に満ち、「富二代、貧二代」(金持ちの子どもは金持ちで、貧乏人の子どもは貧乏人)という言葉が流行るなど、格差の固定化も問題になっていた。

しかし社会への不満が政権批判につながるかというと、そういうわけでもないところが、日本と大きく違う。中国人には与党野党の選択肢がない。選挙もない。海外事情に詳しいごく一部のエリートはともかく、庶民レベルだと選択肢がないなら、その是非は考えないものなのだ。

何よりも経済が成長し、頑張り次第で生活が豊かになると期待が持てれば、人は自分のキャリアアップに集中する。普通に働いているだけで給料がどんどん上がる環境に身を置いて、自分自身も中国人の気持ちがよくわかった。

「勉強をすれば金持ちになれる」

そもそも筆者がなぜ日本を出たかというと、やっとの思いで正社員になっても給料が増えない、長時間労働前提で子育てと仕事の両立もしにくいなど、努力しても将来がよくなるという希望が持てなかったからだった。

勤め先の大学の同僚たちは「勉強を頑張れば金持ちになれる」と学生たちに口癖のように言っていた。

筆者は上から下までファストファッションの衣類を身に着けていたのに、中国人の同僚はレクサスに乗って通勤したり、日本で購入した数十万円の毛皮のコートを着て教壇に立った。

「勉強を頑張ったらこういう暮らしができるということも示さないといけない」

中国は2010年、GDPで日本を抜いて世界2位に浮上した。「経済的に豊かになる」ことが共通の目標で、それはほとんどの人にとって実現可能に思えた。格差があっても、1人ひとりが過去の自分に比べて「より豊かになる」道筋が示されていた。

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