日本を「創造的破壊」ができない国にした「方針」 いま最も必要な「天才シュンペーター」の思想

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このラゾニックの議論の根底にあるのは、シュンペーターの経済理論である。

シュンペーターは、今も、世界に大きな影響を与え続けているのである。

例えば、社会学者のフレッド・ブロックも、シュンペーターの主著『資本主義・社会主義・民主主義』について、こう述べている。

七十五年後に、シュンペーターの『資本主義・社会主義・民主主義』に立ち戻ることは、骨董いじりなどではまったくない。その反対に、現代の我々が置かれた政治経済状況を理解しようとする者にとっては、決定的に重要なことである。

ブロックは、2013年に、『ニュー・リパブリック』誌の「イノベーションに関する最も重要な3人の思想家」にも選ばれた研究者である。

ちなみに、フレッドと並んで選出されたマリアナ・マッツカートもまた、シュンペーターの流れを汲むイノベーションの研究者であり、彼女は、ヨーロッパ日本の産業政策に大きな影響を与えている。ちなみに、マッツカートは、ラゾニックと共同研究も行っている。

なお、来年から、アメリカは、ドナルド・トランプが大統領となるが、そのトランプが国務長官に起用するとされるマルコ・ルビオ上院議員は、産業政策の熱心な推進者として知られる。 そのルビオは、2019年に発表した『21世紀のアメリカの投資』 というレポートの中で、ラゾニックとマッツカートの研究に言及しつつ、株主価値最大化を目指す経営はイノベーティブではないと強く批判したのである。

このように、シュンペーターの著作は、現代のイノベーション研究のみならず、各国の産業政策にも、インスピレーションを与え続けているのだ。

「コーポレート・ガバナンス」改革への警告

ところで、日本は、1990年代以降、ラゾニックが批判したアメリカの「コーポレート・ガバナンス」改革を理想視し、模倣し続けてきた。その流れは、2010年代の安倍政権の下で加速した。ちょうど、アメリカでラゾニックの業績に対する評価が高まっていた頃である。

ちなみに、1999年5月、ラゾニックは、経済同友会が東京で主催した企業システム改革のカンファレンスにおいて、講演を行っている。当時の日本は、デフレ不況で苦しむ中、アメリカから株主価値最大化のイデオロギーを持ち込み、それまでの日本的経営を破壊して、「コーポレート・ガバナンス」改革を始めようとしていた。そんな日本に対して、ラゾニックは、警告を発した。

日本の企業経営者と公共政策の担当者は、株主価値の最大化を追求するコーポレート・ガバナンス体制と、経済全体の持続可能な繁栄との関係については、アメリカにおいてすらも、議論の余地が大いにあることを認識すべきである。(Lazonick, W., 'The Japanese economy and corporate reform: What path to sustainable prosperity?',Industrial and Corporate Change, 8 (4), 1999, pp. 625-6.)

しかし、ラゾニックの警告は無視され、日本は、株主価値最大化を追求する改革へと邁進していったのである。

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