東洋経済の「社長交代」発表が不評を買った理由 従業員には寝耳に水、クーデターと言われても仕方ない
次期社長予定の山田氏は、取締役としてのこれまでの行動に責任はあると明言しており、今後、東洋経済をよくしていくことで責任を取るという。そうした主張はわからなくもないが、従業員から納得を得られるかは別問題だ。
人事が発表された当日の様子
筆者が今回の社長交代発表において悪手だったと考えるのは、従業員への説明が11月1日になったことだ。
人事が予想外だったことは間違いない。にもかかわらず、発表のあった10月30日は執行役員に対して説明が行われただけ。側聞する限り、その場で納得のできるような説明はなされていない。従業員の間には疑心暗鬼と不安が渦巻いた。
当日、まともな説明がなされなかったのは「株主総会前で正式な人事ではない」からだという。だが、株主総会の議案として取締役会で決定し、対外発表も行っている。社長交代で記者会見を開くような会社の場合、案としての機関決定がなされた当日に行うのが当たり前だ。
東洋経済という小さな会社の社長交代なので「記者会見を開け」と言うつもりはない。しかし、異例の社長交代だからこそ、可及的速やかに、かつ丁寧に従業員に説明する必要があったと考える。11月1日に開かれた説明会は、労働組合に迫られて急きょ決めたものだった。
自社の混乱をどこまで読者にお伝えするべきか迷うところだ。「読者のニーズはない」という社内外の批判もあるだろう。
目下、日米で政局が動いており、経済へのインパクトは大きい。3月期決算企業が続々と中間決算を発表している時期でもある。「もっと大事なことを報じてくれ」というお叱り受けることは承知のうえで、書いている。
なぜなら、東洋経済はメディアであり、言論機関やジャーナリズムを自任しているからだ。他社の案件では、法的には問題ではなくても、ガバナンスや経営という観点から批判をしてきた。
筆者個人としても、「コラムニスト」という偉そうな肩書きで他社のガバナンスや社長の言動に対して論じており、自社の問題をスルーするのはフェアではない。他社に対してと同じように、何があったかを簡潔に知らせ、批判すべき点は批判する。そうすることが読者、取材先、取引先など大切なステークホルダーへの説明責任を果たすことになると考えるからだ。
今回の人事の背景には、出版業界が構造不況業種であり、東洋経済も苦しんでいるという事実がある。近年は赤字にこそなっていないが、先行きが厳しくなっていくばかりだ。紙媒体が縮小する中、オンラインでの競争も熾烈を極める。
残念ながら、東洋経済のガバナンスが他社を批判できる水準にはない。社外取締役はおらず、非上場会社であるため株式市場からの規律は働きにくい。
そうした中で他社を論じるのか――そう問われたら「Yes」と答える。「わが身を振り返る」ことは大事だが、発言する資格を問いただせば、誰もモノを言うことができなくなる。健全な言論には、自由に論評しあえることが大切だと考えている。
だから業績もガバナンスもどうでもいいというわけではない。われわれの記事に少しでも説得力を感じていただけるよう、筆者を含めて努力していく必要がある。
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