居場所を失った「いじめっ子」を救った祖母の告白 「ワンダー 君は太陽」のアナザーストーリー

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幼い頃に患ったポリオの後遺症で足が不自由だったジュリアンは、クラスメイトから「トゥルトー」(カニ)と呼ばれ、からかわれていた。

サラ自身もそれまでジュリアンに関心を寄せることもなく、名前すら知らなかった男子だった。だがサラに密かな恋心を抱いていたジュリアンは、サラを家の納屋にかくまうことにする。

もしナチスに見つかれば命の危険にさらされるにもかかわらず、ジュリアンの両親も必死になって彼女を守ってくれた。人を一面でしか見ていなかったことに気づいたサラは、ジュリアンが豊かな知性と気高い精神を持つことを知るようになるが――。

本作のメガホンをとったのは、ハル・ベリーにアカデミー賞主演女優賞をもたらした『チョコレート』で、世界的映画監督となった名匠マーク・フォースター。

その後も「ピーターパン」の誕生秘話をジョニー・デップとケイト・ウィンスレットを迎えて描いた『ネバーランド』や、「くまのプーさん」のその後の物語となる『プーと大人になった僕』といった人間ドラマの秀作を発表する一方で、『007/慰めの報酬』やブラッド・ピット主演のゾンビ映画『ワールド・ウォーZ』といった大作映画も手がけるなど、規模の大小を問わず、数多くの意欲的な作品を発表してきた。

人々を分断してはいけない

そんな彼が本作の脚本を手にしたのは2020年、コロナ禍のために街がロックダウンされ、外出もままならないときだった。

登場人物たちの境遇に感情移入しながら読んだというフォースター監督は、そこに描かれた人間のやさしさ、親切心、命をかけて隣人を助ける勇気、希望と慈愛といったテーマに心打たれ、晴れやかな気分になったといい、読み終わった後に感動のあまり涙があふれたという。

ホワイトバード はじまりのワンダー
ユダヤ人に対するナチスの迫害が日に日に激しさを増す中で、ジュリアンと過ごす時間がサラにとって救いとなった。© 2024 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC. All Rights Reserved.

海外メディアのインタビューで「そんなふうに泣いてしまったのは『ネバーランド』に続いて2度目のことだった。この作品にも同じものを感じた」と語っていたフォースター監督だが、まさに今、この作品こそ伝えるべき物語だと確信したという。

ナチスによるユダヤ人迫害という恐怖が支配する絶望的な状況において、それでも困っている人に勇気を持って手を差し伸べることができるのだろうか。恐怖にかられて迫害に加担してしまうかもしれないし、見て見ぬふりをして恐怖をやり過ごしてしまうかもしれない。人間はどちらの道にも進みうる。

それでもフォースター監督が「この映画は人々を分断してはいけないこと、人間は誰もが愛される存在なのだということを指し示している」と訴える通り、この映画が絶望の中に生まれる希望について考えるきっかけになりそうだ。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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